night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

舞台『偽伝春琴抄』@ DDD青山クロスシアター 5/29

 黒沢ともよさんが舞台をやる? えっ、一人芝居? えっ、一人ミュージカル? えっ、『春琴抄』?! ──何が何だかわからないけれどこれは絶対に行った方がいい、と直感した。日曜日のマチネ(千穐楽の日の前楽の公演)の「当日引換券」を買って、青山へ向かった。表参道で地下鉄を下りて地上に上がり、コーヒーを飲んでから…、会場は、国連大学とこどもの城(昔の)の敷地の横を入ったところのビルの地下にある、小劇場みたいなスペースだった。12時ちょうどの開演。公演時間は60分とのこと。──黒沢ともよさんが声優としてものすごく演技力のある人だということはなんとなく知っていたけれど、舞台女優としての姿を見るのは初めてだ。

 そういえば、サイトに掲載されていたあらすじの文章(フライヤーに載っているのと同じ)が、さっぱりわからない文章で、これはさすがにどうなの、という声があったのではないだろうか。“原作『春琴抄』あらすじ”という紙が配布されていた。

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 白い紗幕が立ち込めているような舞台で、ヴェールで顔を半分隠した黒沢さんがはだしで歌い踊る。プロジェクションマッピングで空間全体が彩られていく、非常に凝った演出だった。──そもそも谷崎潤一郎の『春琴抄』という小説自体が多様な読み方の可能な油断のならない小説だと思うし、この小説が世間でどう解釈されているのかもぼくにはわからないのだけれど、前半最後に鳥かごの中で折檻するシーンは、ああやはりそこはそういう解釈なのね、と思ったりした。ただ、原作が三人称の物語なのに対して、これは「彼女」が語る物語だと最初に宣言されていて、そこは「偽伝」たる所以でもあるのだろう。──また、原作の独特な擬音…「ちりちりがん、ちりがんちりがん」だとか「ほーきーべかこん」だとかが台詞に散りばめられているので、これは先に原作を読んでから観劇してよかった(情報量が多すぎて理解できなかっただろう)。

 後半の入りの、利太郎ラップ(?)…「おぼえてなはれー、おぼえてなはれー」には、笑ってしまってよいのかよくわからず(^^; ──この芝居、全編を通して、現代語のギャルっぽい語りのパート(観客をガン見してきたり、イジろうと試みたり(あれは観客は対応すべきなのかどうか?)もする)と、原作を生かした擬古文の語り(その長い長い語りを機関銃のように繰り出すのだから凄まじい)が、入り混じって展開されていくのだけれど…、終盤、私と同じところに来てくれたはずの佐助と、会えない。佐助の手は、もう、ない──現代の街の喧騒の中に、彼女が独り、取り残される──その場面で、あっ、と、この仕掛けが全体の伏線だったことに気づいたのだった。まさに「偽伝」。

 単純に、一時間ぶっ通しで、一人で歌い、踊り、七色の声で演じ続けて、声もまったくぶれず、滑舌をあやまることもほぼなかった黒沢ともよさん、本当にすごい。帰り道、とにかく人に勧めたくてたまらない舞台だったのだけど、どうやら期間限定で有料配信がある模様です。

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 記録のつもりでリンクを貼っても、こういうウェブサイトってすぐ消えちゃうからなあ。ナタリーとかSPICEの記事のほうがまだ残りそう。
偽伝春琴抄
黒沢ともよオフィシャルサイト>舞台『偽伝春琴抄』
ステージナタリー>黒沢ともよがプロジェクター5台と共に挑む、一人芝居「偽伝春琴抄」開幕 (2022/5/24)
SPICE>黒沢ともよが描く、新たな映像表現の形とは 一人芝居『偽伝春琴抄』が開幕 (2022/5/24)

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『偽伝春琴抄』、前半最後のサディスティックな情の通わせ方と、終盤の、私と同じところに来てくれたのにあなたがいない!という吐露は、理屈ではつながっていないんだけど、たしかにつながってるんだなあ。恐ろしい脚本、恐ろしい女優、黒沢ともよ
2022-05-29 13:57:49