今年は東京で正倉院展がある!ということで、期待していた。──まずは、会期初日の10月14日の祝日、午後遅めに行ってきた。先日の台風のためか、国立博物館の敷地内も、木の枝が折れたようなところが少し目についた。
■東京国立博物館>御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」
重々しい錠前と、奈良時代の古櫃から、展示が始まる。──螺鈿やトルコ石が散りばめられて花のようになった“平螺鈿背円鏡”や、赤や黒に染められて鳥の紋様が描かれた聖武天皇の象牙の碁石に見入る。この鮮やかな色が、天平の時代から伝来してきた、本物だというのだから、驚いてしまう。光明皇后の願経は、東京国立博物館の所蔵だというが、紙こそ茶色くなっているものの、千年以上もよく残っているものだ。──“花氈”という、青い花が描かれた布地は、毛織物かと思ったが、これは、羊毛をすだれで巻きこんだりして、押し固めて作った、いわゆるフェルトなのだという。唐の時代のフェルト!
香木のコーナーがあって、織田信長や明治天皇が切り取ったという“蘭奢待”などが展示されていたけれど、香りがわからないと、ただのごつごつした木であり、なんだかなあ…という気も。──そして、後半は、“螺鈿紫檀五絃琵琶”が!
これが本物か…!と見入る。表面板は、ラクダに乗った人物とパーム椰子のような、中近東風の意匠。模造の製作のようすのVTRが流れていて、埋め尽くしている宝相華の紋様は、螺鈿や、玳瑁の裏から彩色するという技法で作られているということを知る。また、象牙でできた赤い撥というものが一緒に展示されていて、これは実際に使用された形跡があるのだという。模造で再現した琵琶を、ボロロン…と鳴らす音が、展示室に流れる。天平の音色である。──これはすごいものを見られた。
深く感動したのは、展示の最後にあった、“塵芥”というもの。古い布や宝物が、時代とともにぼろぼろになり、その形を失っても、正倉院では、その切れ端や繊維に至るまで何一つとして捨てず、金属製品や繊維製品などをより分けて保存し、現代と後世の研究に資しるという営みを、続けているのだという。
この海老錠は本物なのだそうだ
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そして、11月14日(土曜)の夕方には、後期展示に行ってきた。夜間開館を狙い、先に東洋館を回って時間を見計らってから入ったので、待ち時間こそなかったものの、無理なく見られた初日とは一変して、場内はもはや大混雑になっており、まともに展示を見られる状態ではなかったのだけれど…。後期は、“螺鈿紫檀五弦琵琶”が帰った代わりに、“紫檀木画槽琵琶”が来ている。
赤っぽい絵柄は、騎馬の場面らしい。これも背面には鮮やかな花鳥紋が描かれている。
そして、後期、何をおいても見たかったのは、ササン朝ペルシアから伝来したという“白瑠璃椀”だ。
薄い褐色の色味がついていることを初めて知る。──これ、展示ケースの後ろに回って、照明の光源の反対側から、視線を椀と同じ高さに落として見ると、切子を通した無数の光が輝いて見えて、本当に美しい。この見方、Twitterで見かけたのだけれど、たしかにおすすめだ。