東京国立博物館へ向かう。金曜は夜間開館の日だ。
企画展の期間ではないけれど、ここは常設展だけでも見ごたえがありすぎるし、来るたびに展示に変化がある。そろそろここの年パスを買った方がいいのではないか…。
琉球王朝時代の螺鈿! 以前、サントリー美術館の展示で初めて目にして驚いた、こういう螺鈿の大盆、東京国立博物館にもあるのね。なかなか目にする機会がないものだと思う。
俵屋宗達の扇面散屏風。当時の“瀟洒なデザイン”だったのだろうなあ
長谷川雪旦『月に秋草図』。
浮世絵のコーナーは、見に来ると毎度違うものが展示されている。これは『品川君姿八景・入船乃夕照』。
薬師寺の聖観音菩薩の模造だそうだ。端正でよいプロポーション。
飛鳥時代の菩薩立像。身体がだいぶ薄いので、本当にもともと立像だったのかな…と思う。今となってはどことなく異形である。
東洋館に入ると、ちょっとすごい石仏に目を奪われた。
光背までびっしりと彫刻で埋めつくされている。驚きすぎて、これがどの時代のどこの像なのかメモするのを忘れた。
13~14世紀イランの花鳥紋と、ラスター彩の陶器。金彩がきれい。
中国絵画のコーナーには、扇面美人図の数々。
明代の、螺鈿の花鳥。
蒟醤(キンマ)と呼ばれるタイの漆器。
怪獣の類が描かれているようだが、細密さに驚く。漆を塗り重ねたのちに紋様を刻みつけて、そこに別の色漆を入れる、という技法だそうだ。
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この日の東京国立博物館は、いつもの金曜夜間開館よりも遅い、22時までの開館だ。近年、年に一度開かれている、『博物館で野外シネマ』というイヴェントの日で、本館にはスクリーンがかけられ、パイプ椅子の客席が前庭に作られている。今年はこの金曜日と翌土曜日が、野外シネマの日で、なんとなく土曜日に見に来ようかなと思ってはいたが、ぼくはこの日、博物館に来るまで、金曜日もやっていることを忘れていた。
いい具合の、気持ちよい風が吹いていて、出店のインディアペールエールを飲みながら、後ろの方に座った。──今年の映画は、『この世界の片隅に』。この映画、ぼくは実は、見たことがなかったのだよね…。ちょっと疲れていたので、途中で帰ってもいいかな、と思いながら見始めたけれど、見始めたらもう、席を立つことなんかできなかった。あの、国立博物館の前庭に、おそらく千人くらいの観客がいたと思うのだけど、完全な静寂が訪れた瞬間があったのが、印象的だった。