▽夜は千の目を持つ(創元推理文庫)/ウィリアム・アイリッシュ、村上博基(訳)
これは、推理小説というよりは、文章で読むフィルム・ノワールなんだね。1945年のニューヨークではすでに24時間レストランで男女が気怠く語らっていた、って、ある意味で圧倒的な文化格差。
▽ジャガイモの世界史 歴史を動かした「貧者のパン」(中公新書)/伊藤章治
▽「地図感覚」から都市を読み解く 新しい地図の読み方/今和泉隆行
▼ふしぎな鉄道路線 「戦争」と「地形」で解きほぐす(NHK出版新書)/竹内正浩
▼昭和16年夏の敗戦(中公文庫)/猪瀬直樹
開戦に向けての石油の需給予測の雑さには唖然とする。
▼旅がなければ死んでいた/坂田ミギー
夏の旅行中に新幹線の中で読んでいた。まあ面白かったんですけど、…結末にがっかりですよ(?)
▼独ソ戦 絶滅戦争の惨禍(岩波新書)/大木毅
国防軍善玉説なんてすでに時代遅れなのね。
▼古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで(中公新書)/河上麻由子
◆うたかたの記/森鷗外
青空文庫でなんとなく読んだが、とにかく美文に感心した。評価の分かれる(?)『舞姫』よりも、こちらを教科書に載せたほうがいいのでは、などと思った。
「狂人にして見まほしき人の、狂人ならぬを見る、その悲しさ。狂人にならでもよき国王は、狂人になりぬと聞く、それも悲し。悲しきことのみ多ければ、昼は蝉と共に泣き、夜は蛙と共に泣けど、あはれといふ人もなし。おん身のみは情なくあざみ笑ひ玉はじとおもへば、心のゆくままに語るを咎め玉ふな。ああ、かういふも狂気か。」
かくいひつつ被りし帽を脱棄てて、こなたへふり向きたる顔は、大理石脈に熱血跳る如くにて、風に吹かるる金髪は、首打振りて長く嘶ゆる駿馬の鬣に似たりけり。「けふなり。けふなり。きのふありて何かせむ。あすも、あさても空しき名のみ、あだなる声のみ。」
又いきおひある物は貪欲ふかく、独身なる物は人に軽めらる。財あればおそれおほく、貧ければうらみ切也。(略)世にしたがへば身くるし。したがはねば狂せるににたり。
▼おくのほそ道 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典(角川ソフィア文庫)
初めて通読した。「かさね」のほほえましさとか、いちいち古人をしのんで感動しちゃう芭蕉さんとか、夏の東北の風景が思い浮かばれたりするあたり、気持ちよく読み進めていたが、どうにもひっかかったのは、終盤の、市振のエピソードだった。『おくのほそ道』の全体から見ても異色と言ってもよい一節で、どことなく、旅を続ける忌まわしさ、のようなものすら感じる。また、「佐渡に横たふ…」のあとにこれが置かれていることも、大きな幽界と小さな幽界の対比のようにも思えた。
『おくのほそ道』の解説書は数あろうが、この本は、解説文の独善・断定調が、若干鼻につく。
▼立華高校マーチングバンドへようこそ 前編・後編(宝島社文庫)/武田綾乃
▼響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編・後編(宝島社文庫)/武田綾乃
追い続けていたこの物語もいよいよ最終章。何度か読み返していた。もはや畸形的な進化を遂げてしまった吹奏楽部に、唐突に現れてあくまでニュートラルに振舞う新キャラ、三年生の転校生・黒江真由。この真由というキャラ、吹奏楽部が進化する中で久美子が置き忘れてきたもの(あえて棄ててきたもの、と言ってもいい)を体現しているような存在で、それに久美子がどう立ち向かうかのお話…とも解釈できるのが面白い。だが、最後に、真由が何を考えてどう行動したのかは、語られないんだよね。なぜなら、これは久美子の物語だから。進化しながらすべてを手に入れる主人公、久美子の物語だから…。でも、語られないそのあたりを考えていくと、想像がふくらむ。──久石奏には惨敗しててほしい(笑/インターネットミーム)。
ユーフォシリーズについてこれまであまり語れなかったのは、この作品に感じることを語ることはぼくの場合すなわち自分語りになってしまうから。環境は違っても、中高や大学で音楽系部活をやっていた人は、きっと、すべての登場人物の思いのかけらが、なにかしら自分の中にもあったと感じられるのではないだろうか。ぼくにとっては、そういう意味でものすごく引っかかりがあり、だからこそものすごく惹かれる作品だった。最終楽章のアニメーション化を、何年かかっても、待っている。
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