会場に入ると、平安時代の如意輪観音坐像が、妖美な目つきで出迎えてくる。──醍醐寺が王朝国家に保護されてきた歴史ある寺院であることは一応なんとなくは承知しているが、教科書に出てくるような空海や豊臣秀吉の肖像がさらりと展示されているので、感心せざるを得ない。平安時代の五大明王像などは、どうもつるりとしていて、なるほど鎌倉時代の仏像とは感じが違うなあ、などと思いながら見て行ったが、国宝の薬師如来の大きな座像、これが、左に行っても右に行ってもこちらを見下ろしているように見える、不思議な像であった。大きいから威圧感があるというだけのことかも知れないが…。
すばらしかったのは、三宝院の表書院上段之間の障壁画という、『柳草花図』。長谷川等伯だということになっているようだが、絵具が剥落して状態はよくないものの、画面の前に立つと、そこに本当に一陣の風が吹いて、柳の葉末を揺らしているように見えるのだ。これには驚いてしまった。