ピエール・ボナールとは、後期印象派とかナビ派とか言われてもあまりぴんと来ないが、とにかく19世紀末から20世紀初頭くらいの画家だ。茫洋とした色彩の絵が多く、なんとなく、うーん、という感じで、感想を抱きにくい。顔のはっきりしない女性像(そんなところを描いちゃうかねえ、というような場面も。モデルにしていた奥さんを裸にして撮った写真などもあって、さらに「うーん」と思わされる)や、縦に伸びた奇妙な猫などを、見て回った。
『テーブルの上の林檎の皿』という静物画が印象に残った。テーブルの上の面に当たる、乾いたような強い光と、側面に落ちる影の対比。──南仏の、崖のような海岸の遠景があいまいな線と強烈な色彩で描かれた絵(『アンティーブ(ヴァリアント)』)も、光に満ちた理想郷を思わせて、大変好みだった。
■国立新美術館>ピエール・ボナール展
■ピエール・ボナール展(日本経済新聞社)
この人の裸婦像、どうも窃視的なのばっかりなのが気になるんだけど、肌を描くときの微妙な色合いに、感心したりも。
最後に出てきたこの作品が、なんとも、白眉だった。『花咲くアーモンドの木』。ボナールの最晩年の作品だということだが、鮮やかで、まったく枯れていない。──この展覧会に、“終わりなき夏”(L'éternel été)というサブタイトルがつけられていたことに、このときようやく気付いた。