night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

フェルメール展@上野の森美術館 10/5

 前のエントリの続き。──時間がなかったのは、フェルメール展の時間指定入場券のため。上野の森美術館で始まったフェルメール展、いまは8点ものフェルメール作品が来ている、という触れ込みである。大混雑必至だな、と思ったら、時間帯指定の入場券を前売りするという。この日が東京展の初日で、ちょうど仕事が非番の日だったので、しばらく様子見してみるかな…とも思ったけれど、先手必勝(?)だろう、と、前日に「15:00」の券を買っておいた。15:00~16:30の間のみ入場できる。入場のみ時間指定で、入替制というわけではないので、入ったらいつまでいてもよいということになる(とは言え、そんなに滞留する場所はないので、適当に出てくることになるだろうけれど)。──Twitterを検索していると、やはり、「時間指定入場券なのに長蛇の列!」という話が目につく。これは、指定時間帯の初め頃に行ってはいけないということだろう、と思い、この日は先に藤田展をひとまわりしていたのだった。

フェルメール展

 雨の中、16時15分頃に行ってみると、行列なしで入場できた。だが、「こちら」と案内された方に行くとそこからは入れない、という現象が、展示室に入るまでに2回もあったのが、意味がわからなかった。そもそも普段の上野の森美術館とは違うところから入場させているし、案内が全然こなれていないようだ。

 最初の方にある、同時代のオランダ絵画たちは、邪道を承知で全部スルーして、フェルメールだけを目指す。同時代の文脈を知るべし、という意図を理解はするが、正直なところその時代のオランダ絵画にそれほど興味はないので。──このゾーンは、動線の作り方が下手なのか、ものすごい数の人が滞留して、絵を見るどころの話ではなかった。

 “フェルメール・ルーム”に入ると、

右から、
・マルタとマリアの家のキリスト
正面に、
・ワイングラス
リュート調弦する女
真珠の首飾りの女
・手紙を書く女
・手紙を書く婦人と召使い
・赤い帽子の娘
左の壁に、
・牛乳を注ぐ女

 これだけまとめて見られるのは貴重だ、と改めて思う。フェルメールに感じる魅力は、まず、構図の妙だと思う(それがよく出ているフェルメールが、よいフェルメールだと思っているが、そうでもないフェルメールもある)。壁や窓や部屋の角など、直線的な構成。本当に写実とは思われないような不自然なカーテンやテーブルクロス、後ろの壁にかかった絵の額縁などで、画面が大胆に区切られていたりする。それが静止した空間、謎めいた世界を、強く感じさせる。そして、そこに、柔らかい光がやってくる。

 『ワイングラス』でもすでにその謎めいた世界が展開されている。ワインを飲み干して顔の見えない女。──リュート真珠の首飾り、手紙を書く女、の3枚、あの黄色の上着を着た女性を描いた3枚が並んで見られるとは贅沢だ。

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 『手紙を書く女』は前にも来日したことがあるが、奇妙な衣装に奇妙な髪型なのだけれど、こちらを見る柔らかい微笑みは魅力的だ。思うに、有名な『真珠の耳飾りの少女』も、青いターバンというおそらく日常の服装ではない衣装をつけさせて、一種のコスプレだと思うのだが、そういった女性像を描くという、フェルメールの独自の感覚だったのではないか、と思う。

 『赤い帽子の娘』は、これはフェルメールの作品だという説に則っているのだね。ピントがあっていない写真のような不思議な絵で、当時すでに「カメラ・オブスキュラ」という機械があった、などという研究があるようだが。──そして、『牛乳を注ぐ女』。おそらく腕っぷしの強い女中のような使用人を描いた、画題としてはなぜこんな場面を描いたのだろうと思ってしまうような場面の絵だが、この絵の魅力は、やはり、その完璧な構図なのだと思う。注がれる牛乳、その一点に、彼女の視線も、絵を見ているこちらの視線も、すべて集まるようになっている。

*

 フェルメールだけ見て、他の、同時代のオランダ絵画の文脈からの作品を無視するのは、芸術を鑑賞する態度からは邪道であろうが、上野の森美術館という狭いギャラリー、そしてその中でぐちゃぐちゃになっている動線、その大混雑のなかでは、見ていられなかった。また、展示されている絵にキャプションをつけるのではなく、小冊子を入場時に渡すようにしていたが、これは絵の前で読んでしまう人が続出しており、混雑に拍車をかけていた。

 さらに、『キリスト』の前には『ワイングラス』を見たい人の列ができる、『赤い帽子の娘』の前には『牛乳を注ぐ女』を見たい人の列ができる、という形で、展示室に角があることによる不利が如実に出ていた。日本の美術展に来る人は順路通りに見ることをとても重視する人が多いので、このような無意味な行列ができてしまう。本来、展示に順路など不要だと思うのだが、それは置いておいて、こんな狭いところに8枚も集めるからこうなるんだ、という結果になってしまっていた。

 また、時間指定入場券は、変更も払い戻しもきかないらしい。これはひどい。そりゃそんなことしないほうが興行側の制度設計としては楽でいいだろうが、指定時間帯に1分でも遅れたらすぐさま2,500円のチケットが無効になるわけで、消費者にとって不利すぎる。このスタイルがこの国のこの業界に根付かないことを願う。