night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

雪松図@三井記念美術館、仁和寺展・アラビア展@東京国立博物館 2/3

 中央線を神田で下り、歩いて日本橋の三井本館へ。三井記念美術館というのがここにできたのはけっこう最近だったと思うが、来たことがなかった。


 昨年、京都の国宝展で初めて見た円山応挙の『雪松図屏風』を、改めて見に来た。やはり混んでいたが、それでもなお、やはりすばらしい。塗り残しで表現された雪の筆致の妙もそうだけど、背景全体に掃かれた金泥が華やかだし、ちょっとこの世のものではないような静謐さを感じる。下の方では金泥が飛んでいたりするところも地味に豪快だ。

 またよかったのは、狩野探幽の『芦鷺図』という水墨画。水辺の芦原に雪が積もり、その薄墨の中に白い鷺の群れがぼんやりと浮かび上がるもの。比較的小さな絵だが、幽玄な情景が広がる。これ、ポストカードにもなっていないし、ネット上に画像も見つからないのね。

 そのほか、国宝志野茶碗や、南宋時代の『鸞天目』という、鳥の紋様が入った珍しい茶碗などが目を引いた。──ここは毎日一律で16時半入場打ち切り、17時に閉館なのだが、『雪松図』の展示室には、人が減るのをそれとなく待っている人が何人もいて、しまいには、ある程度の距離を保って『雪松図』を眺める人垣が形成されていた。

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 神田からどこに行こうかなと思っていたが、カフェで一休みしたあと上野に移動して、東京国立博物館の夜間開館へ。

東京国立博物館特別展「仁和寺と御室派のみほとけ ―天平と真言密教の名宝―」

 これ、世間的にそれほど注目度が高い展覧会ではなさそうで、現に館内はだいぶ空いていたし、仁和寺が由緒正しい門跡寺院だというのはそうだろうけれど特にそのこと自体には興味は…と思いながら歩み入ったのだけれど、宇多法皇肖像画と、肖像が着ているのと同じ柄の法衣が、並んで展示されているところで、「おみそれしました…」と思ってしまった。また、弘法大師の直筆だという『三十帖冊子』、これは、メモ帳のような感じのものなのだろうか?

 この展覧会でとにかく圧巻だったのは、現地では拝観できない仁和寺観音堂を、博物館に再現してしまったというもの。展示室に入った瞬間、これは…! と、口が開いてしまった。なおかつ、写真撮影可なのだ。


 風神、雷神。こんなに近くで、こんな角度で、仏像を見るなんて、なかなかない。


 かっこいい鳥の化身、迦楼羅。細かい装束の彩色までよく見える。


 背後の壁画まで再現されている。


 恐ろしい地獄絵が…

 小浜の明通寺、河内長野金剛寺などの、真言宗御室派の地方の名刹から出展された仏像が並ぶが、驚いたのは、横浜市金沢区の龍華寺というお寺の、菩薩坐像。天平時代のものだということで、そんなものが金沢文庫にあるのも意外だが、とてもつややかで、表情も衣も流麗だ。道明寺の十一面観音菩薩立像も、とてもよい顔の仏さまだった。

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 日本考古の展示や、本館にも廻ってみた。


 おなじみ、遮光器土偶


 なんだこれ


 重文“塩山蒔絵硯箱”


 国宝室では、聖武天皇の筆によると伝えられる“賢愚経”が展示されていた。松林図屏風とかに比べれば地味なので、誰も足を止めていなかったけれど…


 宋の青磁。いいねいいね


 伊藤若冲の『松梅孤鶴図』。なんというか、斬新すぎませんか、若冲さん


 浮世絵の部屋は、冬らしいセレクション。

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 表慶館では、『アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝』展を開催中。──古代のアラビア、どんな人々がいたのだろう。石碑の遺物に刻まれているのは、見たこともない文字ばかりだ。


 アラム文字


 ダーダーン文字


 古代南アラビア文字


 ナバテア文字


 これはラテン語


 アラビア文字にはレタリングというかカリグラフィの文化がある、というのは知識としては知っていたが、14〜15世紀あたりからすでに、このような、文中に花が咲いたような文字が刻まれていたのね。


 カアバ神殿の扉?! そんなものを持って来てしまっていいの?


 カアバ神殿を包む黒布?! そんなものを?


 アブドゥルアジーズ王の遺品。現代のアラビア王国の、サウード王家の創始者だ。そう考えると、よくこんな極東の島国に貸し出したな、と思う。──表慶館の前の芝生にはアラビアの人がテントを張ってお茶をふるまうなどのことをしていたが、とにかく寒い今年の東京で、アラビアの人たち大丈夫だろうか、などと思った。


 表慶館は絵になるなあ

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 時間があるので東洋館にも廻った。東洋館、ガンダーラ仏などの主だった展示品はもうだいぶ見ていると思うのだが、ときどき展示品が変わるので、油断がならない(?)。


 清代の、瑪瑙にルビーを象嵌した柘榴。こんなものがあったのか!


 中国の色ガラスたち。


 朝鮮白磁と高麗青磁の名品。


 最近の東洋館でぼくがいちばんいいと思う、北斉と唐の三彩。


 遼三彩なんてのも。


 そんなわけで、がら空きの夜間開館を堪能した。集客のメインである特別展の動員数によって大きく差が出るのだろうけれど、人の少ない東京国立博物館というのは、ある意味、最高の環境だ。