night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

LFJ2016“la nature”

 今年も、『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン熱狂の日”音楽祭』の季節です。今年は二日目と三日目に参戦しました。今年のテーマは“ナチュール(la nature)”。天候にも恵まれて、明るい陽射しに緑が映える、絶好の日和になりましたね。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016「la nature ナチュール -自然と音楽-」

 一公演目はこれ。前夜の暴風雨もおさまった朝の9時半に東京国際フォーラムに現れ、ガラス棟の地下の発券機で、予約していたチケットを発券しました。

公演No.241 5/4(水)ホールC“モルダウ”10:00-10:45
チャイコフスキー交響曲第1番ト短調 op.13「冬の日の幻想」
 ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ドミトリー・リス(cond.)
 こんな時間から聴くのはぼくも初めてです。プログラムは、チャイコフスキー交響曲第1番。ロマンチックで、いい曲です! …なのですが、これを生で聴く機会はなかなかない、という種類の曲でもあります。個人的には、高校生の頃に大好きだった曲でもあります。とにかく、寒くて死にそうな曲なのです(笑)。この日のウラル・フィル、男性の楽員はみな白シャツで、そして独特の薄い黒シャツ姿のドミトリー・リス。演奏は、それほどこなれているわけではなく、ホルンが外したりヴァイオリンが一人出とちったり、と荒い箇所もありましたが、この曲の真骨頂である、寒い歌、これだよこれ! というところが随所にあって、堪能しました。

公演No.252 5/4(水)ホールD7“テムズ”11:30-12:30
ドビュッシー:雨の庭(《版画》から)
武満徹:雨の樹素描
武満徹:雨の樹素描II─オリヴィエ・メシアンの追憶に─
ドビュッシー:野を渡る風(《前奏曲集》第1巻から)
ドビュッシー:西風の見たもの(《前奏曲集》第1巻から)
ドビュッシー:月の光(《ベルガマスク組曲》から)
ドビュッシー:月の光がふりそそぐテラス(《前奏曲集》第2巻から)
ドビュッシー:荒れた寺にかかる月(《映像》第2集から)
ドビュッシー:水の反映(《映像》第1集から)
ドビュッシー:オンディーヌ(《前奏曲集》第2巻から)
菅野由弘:ピアノと明珍火箸のための「水の粒子」
ドビュッシー:雪は踊る(《子供の領分》から)
ドビュッシー:雪の上の足跡(《前奏曲集》第1巻から)
《アンコール》・ドビュッシー亜麻色の髪の乙女(《前奏曲集》第1巻から)
 小川典子(pf.)
 次はホールD7の1列目に座り、小川典子さん。これは最速先行で真っ先にチケットを押さえていました。赤い地に青い大きな花が散った派手なドレス。雨、風、月、水、雪。弱音がとんでもなく美しく、口が開いてしまうほどでした。“明珍火箸”とは何か? と思っていましたが、ひもで結ばれた銀色の箸をぶら下げて、演奏中にときおり手で揺らすことで硬質な金属音が響くもの。終演後、「少し時間があるようなので!」とはきはきと言って、『亜麻色の髪の乙女』をさらりと演奏してくれました。アンコールを含めても時間きっかりに終演、さすがです。

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 帝劇地下街のカフェでパンとコーヒーの昼食を取ってから国際フォーラムに戻り、さらに聴きます。

公演No.223 5/4(水)ホールB7“ライン”13:30-14:15
藤倉大:Chance Monsoon *
坂本龍一:Forest Symphony
武満徹:エキノクス *
大友良英:after 10 days
・ペルーの伝統音楽 ⁑
藤倉大/笹久保伸:「マナヤチャナ」より ⁑
・D.シルヴィアン:Trauma
藤倉大:Flare ⁂
 村治奏一(guitar)*/笹久保伸(guitar)⁑/へんみ弦楽四重奏団⁂/永見竜生[Nagie](サウンド・プロジェクション)
 この日の大問題公演はこれでしたね。ホールB7というがらんどうの部屋で、最初に登場したのは村治奏一さん。奏でるギターは、左右のスピーカで増幅された音を聴くことになり、上手側にいたぼくはスピーカの音が直接耳に入ってきて、若干のホワイトノイズが乗っていて、うーん、と思っていたのですが、その後の『Forest Symphony』などは、ホワイトノイズどころの騒ぎではないわけで、あれま、と。笹久保伸さんはドレッドヘアのギタリストで、サンプリングを交えてノイジーな音場。最後の弦楽カルテットも、逆になぜこれを弦楽カルテットでやるのだろう、という種類の音楽で、極大前衛という感じ。予定時刻よりも15分ほど過ぎて終演。

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 この間に、出光美術館へ。「開館50周年記念 美の祝典:I やまと絵の四季」を開催中。『伴大納言絵巻』を見てきました。上巻が展示されており、炎上する応天門を見上げる群衆の泣き笑いの表情と、たたずむ衣冠束帯の謎の男…。そのほか、『月に秋草図屏風』でしたっけ、これは前にも見たことがありますが、黒い月の屏風に妖気を見ました。


早くも初夏の東京、お堀端の風景

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 そして、改めて国際フォーラムへ。当日購入でもう1本聴いて行きました。チケットボックスには行列ができていますが、スマートフォンで購入・決済して発券機に行けば、一秒も行列せずに済みます。

公演No.214 5/4(水)ホールA“ロワール”16:00-16:45
ドヴォルザーク交響曲第9番 ホ短調 op.95「新世界より
《アンコール》・J.シュトラウスII:ポルカハンガリー万歳!」
 ハンガリー・ジュール・フィルハーモニー管弦楽団/カールマン・ベルケシュ(cond.)
 なんかふつうのクラシックを聴きたくなったので…。『新世界』交響曲、するすると流れて行っちゃう感じもありましたが、端正な音楽でしたね。

 朝から夕方まで4本も聴いたのに、まだ足りないような気がしてしまう不思議。ですが身体は確実に疲れており、有楽町の高架下のビアホールで一杯やってから、某所に寄って、帰宅しました。

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 翌、5月5日、この日は上野の東京国立博物館に行ってから、夜遅くに有楽町に舞い戻りました。LFJの最終日の夜の中庭の雰囲気、ぼくは好きですよ。


ハッシュタグをつけてツイートするとここに表示されていたらしい

 ハイネケンを一杯やってから、ホールAへ。

公演No.316 5/5(木)ホールA“ロワール”21:45-22:30
・松下功:和太鼓協奏曲「飛天遊」
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典
 林英哲(和太鼓)/シンフォニア・ヴァルソヴィア/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団/ロベルト・トレヴィーノ(cond.)
 今年のLFJ東京の最終公演です。ホールAの2階のかなり前の方、という、そこまで悪くないはずの位置を選べていましたが、2階席、だいぶ空いていましたね。明日は平日だからなあ、カレンダーに恵まれた去年とは違うよなあ、なんて思いながら、開演。舞台上に並べられた和太鼓群が目を引きます。

 林英哲さんという和太鼓奏者の方が、祭り装束に白い裃のような、奇妙な服装で登場。和太鼓協奏曲『飛天遊』、フワフワとした現代音楽に乗って和太鼓のカデンツァが炸裂する曲で、これは面白い。途中から裃を肌脱ぎして筋骨隆々の二の腕が画面にアップになる、熱演でした。ヴァルソヴィアの打楽器部隊の方々が林英哲さんをガン見していましたね。──しかし、それに続く大トリの『春の祭典』が、なんだかもやもやとした演奏だったのだよなあ。ああ、そこですね、…ああ、終わりましたね、という感じで、“熱狂のフィナーレ”とは程遠いものになってしまいました。客席の拍手もなんだかおざなり。22時50分頃と、だいぶ遅い時間だったこともあって、消化不良感はありましたがおとなしく退館し、千代田線日比谷駅へ急ぎました。この公演が盛り上がらなかった原因はいくつか考えられますが、ぼくの印象では、演奏がまったく締まりがなかった、というのに尽きます。

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 LFJ東京、有料公演のチケットの販売率が落ちてきているようですね。原因はいくつもあるのでしょうが、事実として演奏がそれほど高い質ではなくなってきていること、また、ホールAのチケットが顕著に売れなくなってきているのは、あそこでクラシックなんて聴けたものじゃない、ということが聴衆の間に行きわたってきたからではないか、と思いますが(でも人気曲ならいい感じに埋まっちゃうという現実もあると思いますが)…、ホールAの見せ方をどうするか、っていうのは、LFJ東京の課題なのではないでしょうか。──今年は日比谷野音も使っていたのですよね。ヴォーチェス8とか行きたかったなあ。正直、雨降ったらどうするのさ、東京のゴールデンウィークはいつ雨が降るかわからないぜ、と思って、野音のチケットは取らなかったのですけど。