▼いつもひとりだった、京都での日々/宋欣穎、光吉さくら(訳)
書店で偶然目にとまって、手に取った一冊。台湾からの留学生が、桜が満開の京都に降り立つ。具体的にいつから何年の物語なのかはつまびらかにはされず、ぼくはおそらく’00年代のいつかだろうと推測する程度だが、登場するお店などは実在したもののようなので、京都に詳しい人や地元の人ならもう少し年代が特定できるだろう。彼女の生活は、さまざまな風変わりな人々──大家さん、友人、教官、留学生仲間、アルバイト先の客の老人、銭湯のおばちゃんなど──に取り囲まれている。仲間と浴衣がけで祇園祭に行ったり、居心地の良いカフェで語らったり、吉田寮の奇人と出会ったり、うまくいかない恋愛に振り回されながら生きている友人がいたりと、若い彼女の生活はまったく「ひとり」ではないのだ。その点は、書名に偽りあり、なのだけれど…、最後の章まで読んだぼくは、電車のなかで少しほろっとして、小沢健二の歌詞など思い出した──「二度と戻らない美しい日にいると」。いつかは離れていくもの、その重なりの美しさの中に、“孤独”を見出し、その日々をいとおしみながら、そしてまた桜の咲く京都を、彼女は後にするのである。原題は『京都寂寞 Alone in Kyoto』だそうだ。きっと著者は、彼女の回想の中で、彼女だけの京都を、今でも歩くのだろう…そう思うと、この訳題も少し腑に落ちる気がする。このエッセイは、もともとは日本の読者を想定して書かれたものではなさそうだが、そういうものすら翻訳して出してしまうのが、早川書房の、そして日本の文芸翻訳市場の、底知れないところでもある。原書を読んでいないから何とも言えないが、翻訳もおそらく、こなれたよい訳文なのだろうと思った。
忘れられない青春を過ごしたすべての人たちのために
▼アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー(ハヤカワ文庫JA)
ネットで噂の「謎のソ連百合」(南木義隆『月と怪物』)を収録、ということで、話題性ばっちりで買ってしまったのだけど。なんかいま世間では百合が流行しているよね。発売当初各地で品切れを起こしていたほどだったこれ、ぼくはしかし、最後まで読み切れなかったんだよな…。百合がどうのよりも、自分にはSFに耐性がないことに気付いた。自分では全然、ハードSFもイケるクチだと思っていたのだけど(?)、そんなことなかったようだ…。面白かったのは、宮澤伊織『キミノスケープ』/今井哲也『ピロウトーク』/陸秋槎『色のない緑』。
▼残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)/中原淳、パーソル総合研究所
書かれている様態が、いちいちうなづけるものばかりで…
▽都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る(講談社選書メチエ)/小泉龍人
▼日本鉄道史 昭和戦後・平成篇 国鉄の誕生からJR7社体制へ(中公新書)/老川慶喜
「旅行者って、すぐわかるね。さびしそうに見えるね」
「当り前さ。生活がないんだから」
▼小説 ぬけがら monogatary.com presents(Kindle版)/夏川椎菜
TrySailの夏川椎菜さんが小説を書いてしまった、という連作短編集。才能を感じる…! 夏川さん、身のまわりのいろんな人の姿を、よく見てきた人なんだね。それをできる人って、なかなかいないと思うんだ。
▽奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業 この生きづらい世の中で「よく生きる」ために/荻野弘之
▼やがて君になる (8)/仲谷鳰
完結おめでとうございます。連載中から思っていましたが、ある種のイデアを見せてもらった気がします。
▼君と漕ぐ2 ながとろ高校カヌー部と強敵たち(新潮文庫nex)/武田綾乃
2巻が出ていたので買ったけど、登場人物を覚えていなかったので前巻から読み直していた。他校のライヴァルたちの、キャラが濃い…! これは、アニメ化待ったなしでしょ…また著者がそういう展開を意識している気がするけど、どうだろう。
▽雪が白いとき、かつそのときに限り(ハヤカワ・ミステリ)/陸秋槎、稲村文吾(訳)
陸秋槎作品を読んでみようと思い、近刊を手に取った。原題『当且僅当雪是白的』。著者は日本のサブカルにだいぶ造詣が深いらしく日本在住だそうで、この書影のイラストも原書と同じもので、日本のイラストレータによるものだそうだ。
中国の地方都市の高校の寮で殺人が起きる。事件の仕掛けや、ひねった百合要素はともかく、中国の高校生活事情が興味深い(ただ、これが日本のライトノヴェルのようないかにもあり得ないような物語なのか、リアリティを含んだものなのかは、翻訳ものだけに、ちょっと判断しかねるところはある)。──物語を覆っているのは重苦しい閉塞感だ。キーワードになっているのは"epiphany"、これは“主の顕現”を意味する単語だと理解しているけれど、“自分の人生が詰んでしまったことに気づく”というような意味で使われている。一度振り落とされたら二度と浮かび上がれない、という思い…、それはかの国のお国柄なのか、それとも国境を越えて現代の私たちに共有された何かなのか…、“思春期のほろ苦さ”などというお決まりの形容ではまったく回収できない、腹の底に重たい感覚。
「善意を持ち出して私のことを勘繰らないで。…だれのことも、善意を持ち出して勘繰らないで」姚漱寒と馮露葵のやり取りが、読んでいて楽しい。
「悲劇というのはそういうもの。たくさんの要素が積み重なってしまってはじめて起きるの。確率の点で考えたら、奇跡となんの違いもないのよ」
「違いならあります。確率が同じようなものでも、悲劇はつねに起きているし、奇跡は一度も起きません」
「自分の位置を早く認識しておけばまだ気楽に生きていけるってだけ。…それ以上の野心はないし、いまの生活を変えたいとも思わない。生活の苦しい人を見れば同情して、見栄えのいい生活を送っている人を見ても大して羨まない──そう生きていれば、いくらか気楽でいられる」
「いかにも、歳を重ねた人が言いそうな話ですね」
「経験からの話だからね」
▽写真で歩く 中国江南の町並み 水郷の都市と古鎮/高土宗明(写真・文)
▽いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 (1~3)(モーニングKC)/竜田一人
すごい漫画だとは思うが、写真トレスとしか思えない絵の数々は、いったい…?
▼ロッキング・オン・ジャパン 2020年1月号
LiSAの2万字インタビューに涙。
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▼Minori Chihara Live Tour 2019 ~SPIRAL~ Live BD [Blu-ray]/茅原実里
▼CANNONBALL RUNNING(初回限定盤)/水樹奈々
▼H-el-ical///H-el-ical//
元KalafinaのHikaru//のソロプロジェクト。わりと急遽発表された12月の初のソロライヴには行けなかったが、アルバムは通販で購入。