久宝寺からうまいこと座れて、奈良に着いたのは14時50分。奈良国立博物館では、特別展『糸のみほとけ』を開催中。これを見に来たのだ。
国宝『天寿国繡帳』、ぼくは以前に斑鳩の中宮寺に行ったことがあるがそこで展示されていたのはレプリカだった。本物を見るのは初めてだ。紺色の字にパッチワークのように刺繍が貼りつけられているが、残欠になったものを取り合わせたもののようで、もともとの姿はすでに失われているようだし、しかも、鎌倉時代に作られた模造部分と、飛鳥時代の本物が、混ぜこぜになっているのだそうだ。だが、明らかに劣化して何の姿だか判別できなくなっている方が鎌倉時代の模造で、女官の衣装や蓮華の色が鮮やかに残っている方が飛鳥時代の本物なのだという。
この展覧会で、“刺繍仏”というジャンルの存在を初めて認識したのだけど、古代では寺院の本尊とされるようなものだったという。鮮やかな釈迦如来図、奈良時代のものだと言われるとやはり驚くし、近づいてみるとぞっとするほどの細かさである。紺地に美しく表装された金糸の大日如来像は、細見美術館の所蔵品だそうで、やはりあそこは尋常じゃないものを持っているな、と感心した。
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レストランで食事をして、仏像館をそぞろ歩いてから、奈良国立博物館を出た。
興福寺も、夕方になって観光客がいなくなると、実にいいね
夏の夕方の気持ちのよい風に吹かれながら、猿沢池あたりを散歩して…
ライトアップイヴェントのようで、池の中の提灯に明かりを入れる準備をしていた。
視覚化された、風の通り道。インスタレーション的な感じ?
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さらに三条通で喫茶店に入ってぐずぐずしていたけれど、そろそろ帰らないと…。18時55分発の快速京都行きで、薄暮の奈良を離れた。
19時47分に京都駅に着いて、新幹線連絡改札の前の自動券売機を叩いたが、やはり夏の日曜日の夜で、新幹線はだいぶ混んでおり、直近の列車はどれも“×”印が出ている。20時29分の『のぞみ422号』の指定席を取れたが、三列の真ん中のB席しか残っていなかった。新横浜まで2時間。