night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

3/23(金)鹿児島へ、霧島アートの森

 実はなんと6.5連休が作れた。このところは、長期で家を空けるような気にあまりならないのだけれど、3泊程度で旅行に行くことにした。──鹿児島県内に、以前から行ってみたいとピックアップしていた場所がいくつかあるので、回ってみたい。しかし、間の悪いことに、今年は大河ドラマが鹿児島である(ぼくは見ていないのだが)。さらに、春先のよい気候の週末だからか、土曜日の夜の宿泊地が取れない。だが、まあ、いざとなればなんとかなるさ、ということで、往路の航空券と、1泊目だけビジネスホテルを押さえた。あとは旅行中のノリで動くことにする。

 3月23日(金曜)、早起きして、町田バスセンターから京急バスで、羽田空港の第2ターミナルに着いた。早く来すぎたので時間を持て余したが、飛行機に乗るときは仕方がない。10時00分のソラシドエア、SNA73便に搭乗して、鹿児島へ出発した。


 どんよりと曇った羽田空港、沖合の滑走路から離陸。航路の関係からか、離陸してすぐに、上がり切らないうちにすごい角度で急旋回するので、びくびくしてしまう。


 雲の上に出ると、空の青さがきれいだなあ。…あ、富士山だ


 知多半島セントレアが見える


 ぐるっと回り込んで南側から鹿児島空港に着陸するが、奇妙な灰色の雲の笠をかぶった山が見える。


 よく見ると、山が煙を吐いているのだった。新燃岳とはあれのことか…。

 鹿児島に着いたのは12時。暖かい。羽織ってきた薄手のコートは、荷物にしまいこんだ。

*

 鹿児島空港からは、鹿児島市内へのバスを見送って、12時20分発の“大口・水俣行き”という中型のバスに乗った。いちおう“特急バス”だそうで停留所の数は少ないが、大型バスではないので、どことなくローカル線の急行列車のような感じがする。空港から北に向かうが、高速道路に乗るのかと思っていたところ、アップダウンの激しい県道を延々とたどり始めた。


 30分ばかり乗って、“いきいきセンター くりの郷”というところで下りた。運賃は鹿児島空港から620円。

 ここは姶良郡湧水町というところ。“湧水町(ゆうすいちょう)”とはどことなくぼんやりした名前だが、平成の大合併による人工地名で(特徴を出そうとして逆に特徴がなくなってしまった印象を受ける)、旧・栗野町にあたり、肥薩線の栗野という駅が近くにある。──ここにやってきたのは、「霧島アートの森」という鹿児島県立の野外美術館が、この近くにあるためだ。だが、ここから地元のバスがあるわけでもないので(1日に何本かはあるようだが)、タクシーで行こうと思っていた。

 地域のセンターのような公共施設だが、春の昼下がり、洗ったように人がいない。タクシー会社の電話番号くらい貼ってあるだろう、と思ったが、ないので、公共施設に足を踏み入れた。窓口の向こうに職員さんがいたので、「タクシー会社の電話番号は…」と問うてみたら、「そこに書いてあります」と公衆電話のそばを指さす。礼を言う間もなく、ぴしゃりと窓口を閉められた。

 タクシーを呼んで、山の上の「霧島アートの森」へ。2,970円、20分くらいかかったかな。思ったよりも遠かった。


 美術館のアプローチ。ハナミズキが咲いていた。


 草間彌生の花も咲いている

霧島アートの森

 入館料は310円。それほど広くない館内の展示と、広い野外展示がある。館内展示には、暗室の中でブラウン管型に切り取られた光が浮かび上がるジェームズ・タレルの作品や、佐藤忠良の彫刻の女性などが目を引いた。他に人が誰もいないので気楽に見られる。


 野外を歩いてみましょう


 照葉樹の森。


 野犬かと思ったよ…


 細い木々に隠れるように佇む、『インサイダー』


 鉄の廊下が斜面に突き出しているようだけど?


 暗闇に光が射す道を歩いて行くと、その先に、えびの高原の美しい風景が見えた。ガラスには、“初めに、神は天地を創造された”という文章と、おそらくその意味のヘブライ文字が浮かんでいた。ダニ・カラヴァンというイスラエルのアーティストの、『ベシレート(初めに)』。


 ぼくが一番気に入ったのは、これ。森の中に隠れるように、白い構造物がある


 屋根もなければ扉もない。円形の内部には砂利が敷き詰められ、木が生えているだけだ。これは『森の観測所』という作品。


 ただここに座っていればいい。しばらくいて、森の音を聞いていた。不思議と、そこを離れたくなくなる。ぼくがもし金持ちで自分の山とか持ってたとしたら、そこにこれを作りたい、などと思った。*1


 噴煙がたなびく桜島が見えた。


 館内のカフェレストランでバターチキンカレーを食べて、「霧島アートの森」を出た。よいところだった。野外にあるどの作品もきれいに清掃されており、園路もよく整備されていたし、それと同時に来場者がほとんどいないこともまた、よかったが、これを維持するのは大変なのではないだろうか、とも思う。

*

 いちおう、一日に何本かは路線バスがある。15時45分という町営バス(“湧水町ふるさとバス”)が通るはずなので、県道沿いのバス停で待っていると、マイクロバスがやって来た。それに乗って山を下り、時代が止まったような家並みの集落に立ち寄りながら、20分ほどで栗野駅に着いた。


 肥薩線栗野駅。窓口には委託駅員らしいおばさんがいて、鹿児島中央まで1,290円の乗車券を買えた。駅の後ろにはきれいな湧水があり、整備された公園になっていて、桜が咲いていた。──駅前は区画整理されたばかりらしく、真新しい民家がまばらに建っているだけで、店などない。少し歩いて国道沿いのコンビニに行ったりしてから、16時41分発の普通列車、隼人行きに乗った。ワンマン運転の2両編成のディーゼル列車だった。


 明治時代からの木造駅舎が有名になった、嘉例川駅。観光列車ではないのですぐに発車する。車内から慌てて写真を撮った。


 隼人で12分待って、日豊本線に乗り換え。新しい電車がやって来たが、これも2両編成。高校生がたくさん乗っていた。しかも夕方の退勤時間帯にかかって、大勢のスーツ姿のサラリーマンらしい乗客が乗ってきていた。1時間に1本程度の列車がたった2両でこんなに混んでて、しかもワンマン運転で、それで赤字だって言われても、擁護できないよJR九州さん、という気がするが、これって今のこの国のいろんな地方で展開されている状況だよね…。そんな混雑した電車が、急峻な斜面と錦江湾に挟まれた狭い平地を、国道と並行して、カーヴしながら走る。錦江湾の向こうには桜島の巨大な山塊が、覆いかぶさってくるかのように見える。


 18時12分に鹿児島中央駅に着いた。ここはすっかり、あか抜けた都会である。──混雑した市電に苦労して乗り込み、天文館の近くのビジネスホテルに落ち着いた。

*1:ゆるく囲われた曖昧な閉塞感のせいだろう、これが好きだというのは精神分析的に何かあるかもな、とも思った。