糸を使った室内インスタレーション作品の展示。大きく三つの展示室に作品がしつらえられている。赤い、細い糸──絹糸だそうだ──が、四方の壁から伝い、絡み合って不思議な紡錐形をなし、床にとぐろを巻いて澱んでゆく。いや、上から下への流れと見るべきでもなくて、それは逆に床から這い上がっているのかもしれない。これは一体なんだろう。
照明が落とされた最後の大きな展示室では、何本かの糸が大きく部屋を横断するようにかかっているのだけれど、それは角度によっては見えなくなってしまうくらいにかぼそい。糸は微細な空気の流れをとらえてゆらゆらと揺れている。糸は、観覧者が入ると呼気やわずかな湿度の変化で弛緩し、人がいなくなると緊張するのだそうだ。
──糸に目を凝らしながら、これはオープンクエスチョンだ、と思った。見ているものの意味がわかるとかわからないとか知っているとか知らないとか、そういうことが大事とされているのが現実世界だけど、そんなことよりも、では意味とは何か、問いとは何か、答えとは何か、…というふうに思考が浮き上がっていくような、、、かすかに揺れる糸を見ながらそんな体験をした。これはたしかにすごい展示だった。
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行きがけに、府中市郷土の森公園に立ち寄った。博物館と一体になっていて入園に300円かかる有料公園なのだけど、整備されたよい公園だ。
水景棚、水が豊かで見ごたえがある。
梅林はまだもう少しだったけど。
蝋梅はむしろ、もう盛りを過ぎた頃だったか。でも、まだよい香りがただよっていた。