炎暑の日、地下鉄で上野に向かったが、ふと思いついて新御茶ノ水で下りた。
新御茶ノ水駅の、このトンネル壁面のカレンダーって、日曜日と祝日の位置に赤い印がついている。実は初めて気づいた。毎年ちゃんと変えてあるのかな。
とても「東京」を感じる風景
聖橋を渡ると右手に木漏れ日の道が。そして、いかめしい黒い構えの門がある。
湯島聖堂。地面に何かガラスがおいてあるのは、いま東京では「東京ビエンナーレ2020/2021」という芸術祭をやっていて(まったく知らなかった)、その展示のひとつなのだそうだ。人はほとんどいない。
ものすごい暑さで汗をかきながら、丘を登って、湯島天神の境内を通り抜けて、天神下の交差点に下りると、地下鉄の湯島駅、そして不忍池がすぐ近くである。
上野公園にやって来た。休日だけど、静かだ。
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■東京国立博物館>聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」
こういうのは難しいんだよね…。ものすごい歴史的な価値のあるものばかりのはずなのだけど、遺物の価値がわからないと、見てもおもしろさを感じられないのだ。──ただ、飛鳥時代の仏像の妖美さに打たれていた。薬師如来坐像の両脇侍の細くくびれたウェストに感心したり…、観音菩薩・勢至菩薩・文殊菩薩・普賢菩薩・日光菩薩・月光菩薩が並んだ部屋は圧巻だった。この人たち、男でも女でもない、不思議な…人間ではない何かのようである。
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東京国立博物館、本館もひとまわり。
国宝室の展示は、いまは『平治物語絵巻』。乱暴狼藉の現場が活写されています
江戸時代の工芸品。こういうのってどういう由来のものなんだろうね。
伝徳川家康筆、『日課念仏』だそうだ。家康がその晩年に、死にそうになったら急に罪滅ぼしを願って、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…と書いていたのだそうだ。紙を埋め尽くすその文字に、鬼気迫るものを感じる。天下人になっても、心が休まることはなかったのだろう。
『歌舞伎遊楽図』。江戸時代のアイドルライヴ会場の図ですね
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東洋館では、「イスラーム王朝とムスリムの世界」という企画展示が始まっている。
■東京国立博物館>マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画 「イスラーム王朝とムスリムの世界」
ペルシャの彩色陶器が美しい。
アブドゥルハミト2世の花押が入った勅令だそうだ。オスマン帝国末期のスルタンですね
優美な刺繍が入った、オスマン朝時代の上衣。
イズニク陶器だ。
宝飾品にくらくらする。
イスラム世界というのは歴史的にはムガル朝インドも含まれる。目もとの涼やかな女性たちの肖像が並ぶ、これはムガル朝の皇后像だそうだ。
ムガル朝時代のインドの細密画、「シャー・ジャハーンと息子アウラングゼーブ」だそうだ。──これ、一見して、“放蕩息子の帰還”だ?と思い、あの挿話ってイスラム世界にも通底するモチーフなのだろうか、などと思ってしまったのだけど、史実ではアウラングゼーブは父のシャー・ジャハーンの帝位を奪っているそうなので、違うんだろうなあ
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翌週にはオリンピックが始まるという時期、東京には、本当なら海外からたくさんの観光客が押し寄せていたはずだけど…。晴れて青い空が美しく、暑いけれど、木陰には気持ちのよい風が通る。人は少なく、静かで、実によい夏の東京の昼下がりだった。まったく、おかしなものだ。