日曜の昼から電車に乗った。職場と、隣接の市以外に出かけるのは、実に3月上旬以来である。小田急で藤沢に出て、東海道線に乗り換えて平塚へ。平塚で下りるのは初めてで、正面ではなく西口という端っこから駅の外に出てしまったためか、さびれた(でも生きている)風俗街のようなところを突っ切ることになった。首都圏というよりは、どことなく旅先で歩く地方都市という感じがする。
国道1号線を渡って歩いて行くと、公園の中にこんなところが。
あらきれい
ここは“八幡山の洋館”というところで、明治末年の建物だそうだ。正式名称を“旧横浜ゴム平塚製造所記念館”という。平塚は海軍火薬廠のあった古くからの工業都市で、海軍の水交社の建物だったものが戦後に横浜ゴム株式会社に払い下げられ、その後、平塚市のものになってここに移築保存されたものだという。中の見学は無料。
ホールからはピアノの音が。
コロニアルな感じでいいね
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さて、また少し歩いて、平塚市美術館へ。立派な施設だなあ。
■平塚市美術館>開館30周年記念 荒井寿一コレクション 川瀬巴水展
これは行かなければならないと思っていたのだ。この禍の時代に、開館している(緊急事態宣言下の東京都内ではないからかな)だけではなく、予約制などの入場規制を特にしていないのもありがたい。
川瀬巴水は、新版画というジャンル(?)で有名な人だが、並んでいるのがとにかく発色の鮮やかなものばかりで驚く。いくつかの作品は写真撮影も可。
芝増上寺。この鮮やかな赤と降りしきる雪。わりと有名な作品で町田の版画美術館でも見たことがあるけど。
展覧会のポスターにもなっている、『旅みやげ第二集 金沢下本多町』。これなんかも、はっとしてしまう。夏の光と空気の記憶が、瞬間的によみがえってくるような画面だ
黒々と夜の雨に濡れる敷石に、光る街灯の明かりや人力車のランプの光が反射する『東京二十景 新大橋』なんて、そのぬめる地面の表現が際立ってすばらしい。この人は夜の街角に人工の光を描き込むのがうまい。『旅みやげ第三集 大坂高津』の木の影も、これはたぶん月光ではなく人工の光だろう。──この人の版画の魅力は、観光案内風に各地の風景を描きながら、そこに人の営みが描き込まれるところなのではないかと思う。光がある、すなわちそこには人の暮らしがある。戦後の『岡山のかねつき堂』なども、地方の象徴的・伝統的な建物を主題にしつつ、その手前の家の窓辺にかけられた衣服などを細かく描き込む。海外向けにただ風景を描いただけの絵がわりと面白くないのに対し、人の暮らしのにおいがすると、ぐっと引き込まれる絵になる。
図録は売り切れていた。ポストカードは何種類かあったが、実物とは発色が全然違うものばかりで、ちょっとうーんと思ってしまい、買わなかった。
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平塚市美術館、初めて来たけどとても立派な施設だ。
工場の間を歩いて行ったら、いきなり佐藤忠良の彫刻があったので驚いたのだ。
これは舟越保武。どちらも透明感のあるいい彫刻だと思う。
こういうトガってるのもある。淀井敏夫の『海』という作品。