night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

吉田博展 @東京都美術館 3/7

 吉田博という人は、いわゆる“新版画”の人として少し知っていて、展示があるならぜひ行こうと思っていたのだけれど…、行ってみて、「とにかくただものじゃない」ということがわかった展示だった。

東京都美術館没後70年 吉田博展

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 まず冒頭が若い頃の水彩画。山に登るのが好きな人だったようで、視界の広い雄大な風景画があったのだけど、透き通った雲がまるで被写界深度の深い写真のようで、この世のものではないような、山に登ったからこそ見られる、描ける風景で…、くらくらするような感じがしたのだ。若いうちからこんなにすごい絵が描けるのに、その後さらに木版画に進む。世界中を旅行した人だったようだ。ヨーロッパの町を見下ろす構図の、オレンジ色の家並みと湖の青さの対比が面白い。このオレンジと青という補色関係をよく使われていて、独特な印象だ。エジプトのスフィンクスの絵も、青い空や青い影に対して、スフィンクスの顔にはオレンジ色の陽が当たっている。

 また水面の描き方が特に印象深くて、油がぬめるような表現をする。瀬戸内の海に帆船が浮かぶシリーズの、帆の後ろから強い朝陽が当たっている絵が、まぶしい凪の海を本当に見ているようだと思った。──この人の版画は、それまでの日本の版画は“摺り”の回数がせいぜい10回程度だったのに対して、もっと多く何十回も摺って色を重ねるのだという。最大96回の摺りを行う作品まであるそうだ。そのせいなのか、浮世絵の持つ平板さはなくて、もちろん水彩や油彩とも違う光や空気がある。寺院や風景のシルエットが、宵闇や朝もやの中に、浮かび上がってくる。惹かれるし、どれも面白い。帰りに図録と、A4プリント画を買った。プリント画は、迷ったけれど、『光る海』にした。海に浮かぶ帆船の、その先に、午後の…夕方か。光が輝いている。本物には及ばないプリント画だけれど、それでも、この光がほしい、と思った。部屋に飾ろう。