night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

『大清帝国展 完全版』@東洋文庫ミュージアム 2/23

 昨年の今頃に開催していた展示が、“完全版”になって帰ってきた?

東洋文庫ミュージアム

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 入口のこのパネルは、特に変わらないのね

 昨年の『大清帝国展』のときと同じ展示物もあるけれど、今回は、太平天国関連の展示物が目を引いた。

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 太平天国の銅銭ですって

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 オーガスタス・リンドレーの『太平天国』。巻頭についているのは、忠王李秀成が彼に与えた通行証なのだそうだ。──オーガスタス・リンドレーは、英国の軍人だったのが太平天国に参加して李秀成の部下になり、「呤唎」(リンリー)という中国語名で2年ほど各地を転戦した…という経歴の人物である。「タイ、ピン、ティエン、クオ」と読んでいくと、当時の中国語をアルファベットに書き取った彼と、現代の発音が、直接つながるような気がして、面白い。この文書の全文の意味はちょっと取れないが、「真忠軍師忠王李」や「洋兄弟呤唎前往上海寧波一帯」…といったあたりは読める。最後に日付が書いてあるところ、「天父天兄天王太平天囯十三年」というのが太平天国元号1863年)だと思うが、「癸開」というのがちょっと変で、干支の「癸亥」だろうけど、発音の近い字に書き間違えられているのだろうか。(開kai1と亥hai4は現代の普通話では違う発音だけど、上海や南京あたりでは同じ発音なのだろうか、とかね)

 オーガスタス・リンドレーのこの著書は、プロジェクト・グーテンベルクで読めるのだけれど、巻頭のこの書き方が、ちょっとすごい。

LIN-LE, FORMERLY HONORARY OFFICER, CHUNG-WANG'S GUARDS; SPECIAL AGENT OF THE TI-PING GENERAL-IN-CHIEF; AND LATE COMMANDER OF THE "LOYAL AND FAITHFUL AUXILIARY LEGION."
TO Le-Siu-Cheng, the Chung-Wang, "Faithful Prince," COMMANDER-IN-CHIEF OF THE TI-PING FORCES, This Work is Dedicated, IF HE BE LIVING; AND IF NOT, TO HIS MEMORY.
 「我こそは、忠王李秀成(チュン・ワン、フェイスフル・プリンス・リー)の"HONORARY OFFICER"であり、"GUARDS"であり、太平軍の"SPECIAL AGENT"なり。」というわけだ。──李秀成とともに戦ったことを、リンドレーは、誇らしい記憶として留めて、英国に帰国したのだ。彼が1866年にこの本 "Ti-Ping Tien-Kwoh; The History Of The Ti-Ping Revolution" を著してこの献辞を書いたときには、すでに天京は陥落し、李秀成も処刑されていたのだけれど…。リンドレーが李秀成とともに戦ったのは、彼が21歳から23歳のときにあたる。その若さで異国に飛び出して、プリンス・リーという四十歳手前の有能な将軍に出会い、一緒に内乱の戦場を生き抜いた…その心情を推し量るのは難しいけれど、彼にとっては、劇的な体験だったのだろう。

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 太平天国の崩壊後に李秀成は捕らわれ、処刑されるのだが、「李の肉筆原稿の一部は取り調べをした曽国藩が自宅に秘匿し、家族にも公開を禁じていましたが、20世紀の半ばに公開されました。本書はその影印版です。」という説明が。

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 清朝の銀貨。

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 朝褂という、皇后の朝服。

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 西太后が描いた絵だそうだ。“寿”という字の形になっている。この人は実は文化人だったということで再評価されているけれど…。

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 爪につける飾りと、纏足の靴。

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 「垂簾聴政」という熟語は、後世の歴史学の用語じゃなくて、この当時の同時代的な用語だったのか。

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 李鴻章、字が上手いですね

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 『大清帝国全図』。これ、今の目で見るといろいろとひっかかるところのある地図で、“「中国」とはどの範囲か?” という、今の時代に通底する問題がたくさんあるのだが…。

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 『中華国恥地図』。赤い文字で細かく書き込まれているのは、いつどこで他国に領土を奪われたか、といったことが詳細に記されているもの。

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 「清朝最後の皇帝溥儀が、水墨で蘭を描いた扇面画です」と説明されているが…、よく見ると「大同二年三月」と書いてある。うーむ。