新型コロナウイルス感染症の流行で、外出の自粛が言われているが、他人と接触しなければよいだろう、と鎌倉に出かけた。横須賀線の鎌倉駅で降りると、それなりに人は多くて、外出自粛ってほどでもないなあ、と思う。太刀洗行きの京急バスに乗ったが、道路は流れていて、鎌倉の休日なんて大渋滞でうんともすんとも動かないという印象を持っていたので、様子は違うのだろうなあとは思ったが、それでも、小町通りや鶴岡八幡宮あたりなどは人でごった返している様子も見えた。
バスは朝比奈のほうに向かうので、途中の「岐れ道」という停留所で下りて、左の道に入って歩いて行った。鎌倉宮に突き当たって、鎌倉宮の右側を回り込んでさらに山の方へ歩いて行く。──目指すのは瑞泉寺である。鎌倉時代に開山の寺で、夢窓国師が設計した庭園が残されているという。関東に夢窓国師の庭があるとは珍しいので、行ってみようと思ったのだった。
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天園ハイキングコースの入口がある。3年前の夏に、歩いてここに下りてきたことがあるが、天園ハイキングコースは昨年の台風以来ずっと通行止めになっている。
鎌倉は山がちな狭い土地で、京の都とはまったく違う風土だが、端正な禅寺が現れた。
名勝の庭園とはどこにあるのか、と本堂の後ろに回り込むと、予想もしていなかった景観が目に飛び込んできた。
岩盤にくりぬかれた洞穴。手前の池も、岩盤に水がたまったような感じだ。洞穴は、もともとは仏でもまつられていたのだろうが、今となっては、そしていろどりの少ないこの季節では、ただひたすら、虚無の光景であった。
烏が2羽やってきて、虚無の池で水浴びを始めた
“庭園”という概念を覆される、不気味な、だがとても静かな庭だった。
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池を配した公園に、永福寺(ようふくじ)跡という看板が出ていた。頼朝が建てた寺の跡だということで、山を背負った大寺院の復元想像図が看板に出ていた。残っていればさぞ立派だったのだろうが…。──鎌倉は、武家政権と仏教文化の歴史が狭い土地の中で押しつぶされているような印象の街だ。
鎌倉宮からバスに乗って鎌倉駅まで戻った。どこかで食事をしたいが、混んでいるし、最近は煙草が吸える店が激減したため外食の気乗りがしない。すこしぶらぶらしてから江ノ電に乗った。休日の江ノ電は大混雑だと聞いていたが、さすがにこの外出自粛下では、普通に乗れる程度に空いていた。──だが、この江ノ電に限らず、この日はもはやマスクを着けていない人が多く、例年の花粉症の時期くらいのマスク率に戻ったなあ、と思ったのを覚えている。グループで出かけているらしい若い人たちも多かった。