night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

東京・春・音楽祭2020「ピアノの時間 ― 三浦友理枝」@上野学園 石橋メモリアルホール 3/20

 新型コロナウイルス感染症の流行で、すでにいくつものコンサートやライヴ、演劇などが中止になったり、公共の文化施設が休館になったりしていたが、2月下旬からイタリアを皮切りにして欧州の状況がどんどん悪くなっていた。『東京・春・音楽祭2020』は、3月13日に、多くの公演を中止すると発表していた。──ゴールデンウィークのLFJがチケットの一般発売開始を「延期」したのもこの頃で、この時点で日本もさることながらむしろ欧州の見通しが立たなくなってきたようだった。

 東京春祭は、演奏家が国内の人であったとしても、そもそも会場に使うはずだったホールや博物館などが閉鎖されている以上は、どうしようもないのだろう…とは思っていたが、ぼくは3月20日三浦友理枝さんのピアノコンサートのチケットを取っており、どうなるのかと見守っていたところ、どうやら開催するらしい。前日にコンビニでチケットを発券した。会場は上野学園石橋メモリアルホールである。学校法人のホールだから使えるのかな、などと思いながら向かった。銀座線の稲荷町駅から歩いて行く。東京はすでに桜が咲き始めていた。

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 上野学園石橋メモリアルホール、ぼくはかなり昔に何かの演奏会で一度足を運んだことがあるはずだが、そのときのぼんやりした記憶とはまったく違う、真新しい建物だった。近年に建て替えられたらしい。──マスクをつけて、入口に置いてあるアルコールを手に噴霧してこすりつけて、入場した。チケットのもぎりは、スタッフの人が小箱を持って立っていて、自分で切り取ってその箱に入れるように、ということになっていた。こんなことは初めて見る。声を出すのも憚られる状態である。CDなどの物販もない。かろうじて、鮮やかなピンク色の表紙の、東京春祭の公式プログラムは売っているが、そこに載っているだろう公演は、すでに櫛の歯が欠けるようになっているはずである。チケットも払い戻しに応じているためか、空席が目立っていた。

ショパン:雨だれ(《24の前奏曲》op.28より)
・C.シューマン:ロマンス イ短調
シューマントロイメライ(《子供の情景》op.15より)
シベリウス:もみの木(《5つの小品(樹木の組曲)》op.75より)
・H.カスキ:秋の朝(《3つの断片》op.21より)
スクリャービン:左手のための前奏曲ノクターン op.9
ラフマニノフ:鐘(《幻想的小品集》op.3より)
(休憩)
ドビュッシー
  月の光(《ベルガマスク組曲》より)
  亜麻色の髪の乙女(《前奏曲集 第1集》より)
  夜想曲
・サティ:ジムノペディ第1番
プーランクエディット・ピアフを讃えて(《15の即興曲》より)
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
・F.モンポウ:《内なる印象》より 哀歌(第1曲、第3曲、第4曲)/悲しい鳥/秘密/ジプシー


-encore-
坂本龍一:energy flow

 冒頭の、ショパンの雨だれのプレリュードで、すでにちょっと泣けてしまった。とてもレンジの広い、エモーショナルな演奏だったと思うし、ぼくも、生の音楽に飢えていたのかも知れない。見ればわかるように小品集という感じのプログラムで、だけどちょいちょいマニアックな曲が挟まれている。シャンソンのようなシベリウスの曲も興味深かったし、プーランクエディット・ピアフが時代が重なっているなんて考えたこともなかったので面白かった(たしかに“枯葉”を思わせる音の動きが聞こえた)。──三浦さんがマイクで曲紹介のトークをしながら進行するスタイルで、今日は本当にやるのだろうかと思っていた…勇敢な皆さん来場ありがとう、というようなコメントもあった。笑っていいのかよくわからなくなってしまうのがこの時世である。モンポウの『内なる印象』は、「プログラムには3曲書いてありますが、6つ弾きます」ということで、たしか上記の6曲だったと思う。アンコールは、ガラッと変わって坂本龍一だった。三浦さんがトリオで坂本龍一作品のCDを出しているのは知っていたが、本当ならこの日の会場でそのCDを物販しているはずだったのだ、ということだ。

■東京春祭の公式フェイスブックで公開された会場写真

 時世柄か、客席も、咳ひとつ起きず、息をひそめているような緊張感があった。

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 ここが有名な、東京メトロ唯一の踏切、ってところね。銀座線の車庫が地上にあるところ。

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 帰りに上野の駅前で食べた海南鶏飯

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 『東京・春・音楽祭2020』は、その後、公演の中止が追加されていき、ついに3月27日以降の全公演が中止になった。