night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

10/9(水)象潟

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 酒田駅。いかにも昭和時代の東北地方の拠点駅、といった感じの駅舎だ。

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 本間美術館から歩いて数分、酒田駅に戻ってきた。わずか2時間ほどの滞在だったが、また北へ向かう。14時41分発の特急『いなほ5号』、秋田行きだ。酒田から北の羽越本線は列車がとても少ない。線路もいつの間にか単線になる。

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 鳥海山がよく見えてきた。裾野を長く引く、ゆったりしたよい山である。

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 遊佐。ここのお米を以前によく食べていました

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 遊佐を過ぎると徐々に庄内平野が尽き、線路は海沿いに追いつめられる。

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 荒い日本海。そして発電風車が車窓に現れる

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 コンビニのおにぎりを食べながら、30分で象潟駅に着いた。ここはすでに秋田県にかほ市に属する町だ。駅の前に停車しているバスは、小田急バスのような色だが、羽後交通だ。

 象潟(きさかた)は、松尾芭蕉が『おくのほそ道』で訪れた最も北に位置する土地だ。蚶満寺はどっちかしら、と見回すが、特に案内板のようなものはない。国道に出て北へ向かうが、Googleマップのナビに導かれて住宅街に迷い込んだ。

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 なんだ、結局、国道側から来るのが正解だったのか。──Googleマップのナビでは、一度、寺の裏口に着いてしまい、これはここから入れとは言っていないようだなあ…、などと、彷徨っていたのだった。

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 “蚶”の字だけが磨滅しているようだが、なぜだろう

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 「象潟や雨に西施がねぶの花」という句になぞらえて、西施の像がある。

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 これが旧参道だという。そして山門がある

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 寺の前には観光客が一組、地元のヴォランティアガイドのような老人に、大きな声で話し込まれていた(帰るときにもまだ話は続いていて、観光客はいいかげんに解放してほしそうな感じが、言葉の端々から聞こえた)。券売所のような窓口には、中に入って声をかけるように、という貼り紙が出ているので、歩み入ってみる。──境内を掃いている女性に声をかけると、その人が受付だということで、300円の拝観料を渡すと、案内ちらしを1枚持ってきてくれた。

 寺の堂には上がれないが、鬱蒼とした裏の庭園を見学できる。西行桜などがあるが、見たいのはやはり、この景観である。

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 ここは、水田が広がる中に、ぼこぼこと小山のような“島”が点在する、奇妙な土地である。この“島”は、もともと鳥海山の噴火でできた流れ山だそうだが、昔は周囲が海(潟湖)で、水面に島が点在する、“九十九島・八十八潟”と呼ばれる景勝地だったという。それが文化年間の地震で土地が隆起して、このような風景になった、というのだから驚く。芭蕉さんが見た景色は、今とはまったく違ったはずなのだ。

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 蚶満寺を辞するとき、「九十九島を上から見られる場所があります」と教わった。

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 国道沿いの道の駅に行くと、6階に展望台が設けられていた。なるほど

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 道の駅には、物産店のほか、入浴施設やカラオケなどがあるようだった。地方に作られるこういう施設、どれだけの意味があるのだろうと思っていた時期もあったが、なるほどこれは外来者のためではなく地域住民のための福利厚生施設なのだということを、最近になってようやく理解できてきた。

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 九十九島の一つに、登れる“島”がある。

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 鳥海山を北側から見ると、立ちふさがる暗い壁のように感じられるのが不思議だ。

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 およそ“島めぐり”などしそうにない人たちのイラストだけど…

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 道の駅の裏手にも、西施の像があった。

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 こちらの西施は、蚶満寺の西施に比べると、どことなく現代的な美人。(^^

 日本海の夕暮れを見ていくことにした。道の駅の近くの公園から、太陽が沈むのを見守った。

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 飛島の肩に、夕陽が落ちていった。

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 象潟の町は、合併して「にかほ市」だが、TDKの工場があるので知られているいわゆる仁賀保とは、10キロほど離れている。国道沿いに、これは警察署だなと思ったら、建物には「にかほ警察署」の文字が消された跡があり、Googleマップを見ると「由利本荘警察署にかほ幹部交番」と書いてあるが、古い地図には「象潟警察署」となっていた。地方では警察署まで統廃合されてしまうのか、と思いながら、象潟駅まで歩いて戻った。──芭蕉さんは「松島は笑ふがごとく、象潟は憾(うら)むがごとし」という有名な一節を書いたが、これは、そもそも、太平洋側の伊達領の街道沿いにある松島の賑わいに比べると、日本海側の象潟は、国境近くの寂しい村だっただろうから、単にそういう人文地理的な違いから受けた印象を述べたものにすぎないのかもしれないし、今でもそれは変わらずにだいぶ寂しい土地だ、などと思った。

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 17時47分の列車に乗る。また特急、『いなほ7号』秋田行きである。象潟から乗ったのはぼく一人だけだった。

 18時41分に秋田に着いた。駅前は西武百貨店などがあって、“無印良品”や“LOFT”などの看板が見えて、さすがに県都である。この日は昼間にほとんどまともな食事をしなかったので空腹だった。ショッピングビルの中のPRONTOでパスタを食べてから、駅に近いホテルにチェックインした。──この日は、秋田市内や近隣のホテルが軒並み満室になっており、平日に東北の地方都市で宿泊先に困るという事態を想定していなかったので焦ったが、楽天じゃらんなどには出ていない空室を、いろいろなホテルのサイトを丹念にめぐって探し当てたのが、このホテルだった。この日の秋田はどうやら複数の学会などが重なっていたようだ。翌週には私立恵比寿中学のライヴもあったらしく、地方都市だからと言って油断はできない。