書を楽しむ素養があるとはまったく言えないぼくだけれど、行ってきた。中国語圏から観覧者が押し寄せていると聞く。少しでも空いている可能性のあるとき、と、春節の時期を少し外したつもりの土曜日の夜間開館を狙って、夕方から出かけて、19時半頃に上野に行ってみた。
国立博物館に夜襲をかけます
はたして、券売も入場も、行列はなし。『祭姪文稿』には20時40分までに整列すること、という掲示を確認してから、先にその他の展示を見た。甲骨文や、青銅器に刻まれた均整のとれた美しい金文に感心するところから始まり、王羲之の『蘭亭序』のいくつもの摸作が並ぶ。
欧陽詢、褚遂良などの端正な楷書のあとに、懐素の『自叙帖』という流麗な草書も。これはたしかに美しい、と感心する。台北故宮の国宝だそうだ。──日本側も、聖武天皇の写経に始まり、空海、嵯峨天皇、橘逸勢のいわゆる“三筆”で対抗(?)しているのだが、もはや展示の終盤で、足早に通り過ぎる感じになってしまっていた。
ひとまわりして、家族への土産に図録を買ってから、20時20分頃から『祭姪文稿』の行列に並び、正味12分で観覧できた。顔真卿が、安史の乱で亡くなった親族を追悼した文章で、書き直しなどの目立つ乱れた書だが、名品とされており、乾隆帝のいいねボタンなどと言われる所蔵印が押され、賛が書き込まれている。「乾隆御覧之寳」というやつだ。昨年、台北故宮に行ったときにいやというほど見た、例のあれ(笑)であった。
巨大なこの拓本は『紀泰山銘』、玄宗皇帝の筆だそうだ。ここ東京国立博物館の所蔵だということだが、これは展示するのも大変だろう。──また、変わり種の展示は、則天武后の書というもので、ぐるぐるとした妖しい筆致であった。