night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

東宝ミュージカル『ビューティフル』@帝国劇場 7/29、8/19

 水樹奈々さんがミュージカルに主演して帝国劇場の舞台に立つ、という珍しい機会に、観劇しに行きました。ミュージカル『ビューティフル』は、米国のシンガーソングライターのキャロル・キングの半生を描いたブロードウェイの舞台で、今回が日本初演。主役のキャロルは平原綾香さんとのダブルキャストで、真夏の帝劇で約1か月間の上演です。ぼくはそもそも軽度のミュージカル好きでもあるので、奈々さんがこっちに来た?!というだけでかなり驚きました(笑/東宝の一本釣りだった模様。そういうこともあるんですね)。ファンクラブ会員向けの販売で二回分のチケットを手に入れました。

帝国劇場 ミュージカル『ビューティフル』

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 一度目の観劇は、7月29日(土曜日)のソワレ。雨が降り出す中、有楽町駅から帝国劇場に駆け込みました。──二度目は、8月19日(土曜日)のソワレ。この日も都内は午後から激しい雷雨になっていましたが、地下からゆっくりと帝国劇場への階段を上りました。


 帝劇で“水樹奈々”の名前を見る日がやって来るとは!

 客席の男性率の高さ! こんな帝国劇場を見るのは初めてです(笑)。明らかにミュージカルが初めて、というタイプの人が多く、帝劇の新しい客層を開拓してしまったのは確かのようでした。

 開演前の舞台上には、中央にグランドピアノが一台。まだ客電が落ちきらないうちから、イントロダクションのオケ伴奏が始まりました。──青い柄のドレスを着たキャロルが登場し、ピアノに向かって歌い始めます(『So Far Away』)。台詞から、カーネギーホールでのコンサートであることが明らかにされます。やがて、16歳のクレイン家のお嬢さんに早替えしたキャロルが現れ…。

 舞台上は、一台のアップライトピアノを使って、クレイン家の居間から、ニューヨークのファクトリー、キャロルの自宅、といった場面をうまく転換させていくもの。ファクトリーの場面では鉄骨風の大道具が舞台に組まれ、その上で音楽に乗ってウッドベースをくるくる回す役者さんがいて、あれ落っこちたら大変だぞ…と見ていてはらはらしました。

 ミュージカルではあるけれど、基本はストレート・プレイなのですね。その中で、ソングライターであるキャロルたちが曲を産み出すと、場面がショービジネスのステージに転換して、その時々のポップ・ミュージックが次々と繰り出されていく、という構成(“ジュークボックス・ミュージカル”という言葉を初めて知りました)。とは言え、ニール・セダカとか、ドリフターズとかシュレルズと言われても、世代的に懐かしい人は懐かしいのでしょうが、ぼくはすでに完全に未知の世代だからなあ…。──唯一、耳馴染みがあったのが『ロコモーション』でした。この曲で、ベビーシッターが舞台上で早替えして歌い始めるところ、あの転換のスピード感は、まるでライヴのようで、帝劇でこれ?! と意外でしたね。

 アメリカン・コメディっぽい台詞も多く、客席は何度も笑いが起きていました。キャロルのライヴァルであるシンシアという作詞家を演じたソニンが、立ち振舞いも表情も抜群でしたし、演技がいちいちかわいく、魅力的です──「勘違いしないでよね」と言いながら右手はハイヒールを脱いでいるというところとか、ドキドキしちゃいました(笑/そもそも、他の作品なら十分にヒロイン役を張れるレヴェルの女優であるソニンが、脇役なんだから…東宝さん、いいキャスティングだなあ、と思うのですが)。また、シンシアの衣装、60年代米国のファッションも、スマートです(対照的にキャロルは、はっきりとは言われないものの、私服がダサい、というキャラづけの模様^^;)。──脇を固める男性陣は、伊礼彼方さん、中川晃教さん、そして武田真治さんという顔ぶれ。男性陣のファンのおばさまがたも客席にはだいぶいらしたようです。「水樹奈々ちゃんの歌はねえ…」なんていう声も聞こえましたけれど、帝劇ってそういうところだ、というのはぼくもなんとなく知っている雰囲気なので、まあ、ね(笑)

 そして、奈々さんの舞台での歌唱。ぼくは正直、通用するのかな? と若干思いながら、帝劇に足を運びましたが、まったくの杞憂でしたね。おみそれしました。7月に見たときは、小さくまとまらずにこなしている、よくやってる、と(若干失礼な表現ですが)思いましたが、8月に見たときは、完全に歌で演技している奈々さんに、ぐいぐい引き込まれました。離婚を決意した場面でピアノに向かって訥々と歌う場面では心を打たれましたし、終盤、『つづれ織り』のレコーディングのシーンで、最初は気が進まなかったキャロルが、歌いながら徐々に心が開いていく、その様子が、表情でありありとわかるのです。お芝居ってすごい。奈々さんはこういう表現もできる人だったんだ、と、本当に感心した場面でした(『A Natural Woman』)。──そもそもピアノの弾き語りを、何か所ではちゃんとやっていて(全てではなく、あて振りをしていたところもありましたが)、さすがプロです。

 7月と8月の二回、観劇しましたが、日本初演の演目、かつ、水樹奈々ファンという新しいタイプの客層が来ちゃってるがゆえか、やはり7月のほうが観客の反応は硬く、8月のほうがこなれてきたのでしょう、客席の反応はだいぶよくなっていました。笑いをとるところでは素直に笑いが起きるし、そうやって反応がよくなったことが舞台上にも影響しているのか、ぼくが見た8月19日のソワレでは、プロデューサのドニー役の武田真治さんが、自分の台詞に自分で笑ってしまってドゥフフとなってしまう、という場面が3回もありました──二幕の「きみたち二人はどうしたんだァ?…」の場面なんかは、客席も大笑いになりました。カーテンコールで「笑いすぎじゃないですか?」と奈々さんからいじられ、武田さんは「…心のままに芝居ができました!」と開き直っていましたが、武田さん的にはおそらく、反省なさっていたのではないかと推察します(^^; ですが、この日の武田さんは、キャロルがニューヨークを離れる前のシーンで、皆でピアノに集まって重唱する場面(『You've Got a Friend』)の、声ににじみ出てる心情が、素晴らしかったんですよね。本当に、よいシーンでした。

 プリンシパルキャスト以外は一人多役、実は比較的少人数で上演している演目で、出演者が勢揃いして挨拶するカーテンコールでは、奈々さんを中心に一列に並べるだけの人数に、これだけしかいなかったんだ、と驚きました。──最後はキャロルの曲(『Bows』)で、奈々さんオンステージ。客席も総立ちで手拍子です。地引き網を手繰るようにして(笑)他の演者を呼び込む奈々さん。奈々さんの最後の投げキスは、どうやらだんだんエスカレートしていったらしく、8月のときはトルネード投法みたいになってましたね(?)。楽しいお芝居でしたし、“帝劇で座長として振る舞う奈々さん”を目撃できたのは、貴重な体験でした。──この『ビューティフル』、パンチ力のある女性歌手を確保できないと上演しにくい演目でしょうが、日本でも育っていくミュージカルになるといいですね。