night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

2/23(木)老龍、滄海に入る ─九門口長城、山海関(1)

 4日目は、北京から鉄道で足を延ばすことにした。──見たいのは、万里の長城、だが、一番メジャーな観光地である八達嶺には、昔行ったことがあるし、人の少ないところで万里の長城を思う存分見たり歩いたりしたい、というのが以前から抱いている思いだった。北京の近郊には八達嶺以外にもいくつかの長城観光ポイントがあるが、どれも交通が不便なところだ。長城は山あいの尾根筋に造られているので、当然である。どうしようか、と考えていたところ、少し地図を広めに見ると、山海関が目に留まった。

 山海関は北京の東に約300km、渤海の海岸沿いにあり、河北省の東端で、遼寧省との境界、歴史的には中国本土と満州の境界だった町だ。満州華北の間の交通路の要衝であり、その名の通り長城の関所が置かれたところで、数々の歴史のエピソードに登場する土地である。北京からは高速鉄道で、列車によっては2時間程度で行けるようだ。“天下第一関”と呼ばれる城門が街なかに残っているほか、山あいにある“九門口”という長城の景勝地と、海岸沿いに万里の長城の先端が波打ち際まで迫る“老龍頭”という名所があるらしい。ぜひ行ってみよう。

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 前の日に、北京駅に行って鉄道乗車券を買ってきていた。──トロリーバスの“北京站西”という終点に下りて、雑踏の中で乗車券売り場を探した。


「自助取票厅」と大きく書いてあるが、券売機ではなく窓口が並んでいて、行列は比較的短かった。こんなもんか、と拍子抜けし、並んで乗車券を購入した。翌日の往復の切符を買うので、確実を期すには、一応、紙に書くか、と思って、スマートフォンでC-tripの日本語サイトにアクセスして列車の時刻を調べた上で(C-tripの中国語サイトはなぜかぼくのスマートフォンではページ内の操作ができなかった)、メモに書きつけて旅券とともに窓口に出したところ、窓口のおばさんに「行きも帰りも明日なんですね?」と確認されて、無事、書いた通りの乗車券が出てきた。

 書きつけて出したのはこんな感じ。

明天 2月23日
北京8:25→山海关10:29 G387 一等座 1张
山海关16:58→北京19:37 D16 一等座 1张


 往路は、北京南駅を朝8時25分発のG387列車、山海関到着は10時29分。復路は、山海関16時58分発のD16列車、北京駅到着は19時37分。行きはここ北京駅ではなく「北京南站ですよ」と念を押された。また、帰りの山海関発の分に“異地售票”として5元、余計にかかった。

 北京駅前は巨大すぎて広場の全貌がこのときはつかめなかったが、広場の正面には乗車券発売の窓口が並んでいて、そこは長蛇の列が渦巻いていたが、西側と東側の売り場はそれほどでもなかった。ぼくは最初に目に入ったのが西側の売り場だったのでそこに並んだが、運が良かったようだ。

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 というわけで、2月23日の朝、早起きして、6時35分頃にホテルを出た。南鑼鼓巷駅の入口まで歩いて5分足らず。これも前日に購入していた北京市政交通カード(“一卡通”)に30元チャージ(増値)してから、6時45分頃の6号線に乗り、平安里で4号線に乗り換えて、北京南駅に7時10分頃に着いた。一卡通の“余額”はこの時点で32元。明日の帰りの機場線に乗れるように残額を調整しておかないとね。

 北京南駅は、一昨年に見た上海虹橋駅に似た、真新しい巨大なターミナル駅だ。マクドナルドで31元のセットメニューを食べたが、ちょっと注意力が散漫になっていたかも…。レジで何か言われて席につき、あとから店員が50元持って来てくれるまで、受け取った釣銭が足りてないことに気付いていなかった。まあ、ごまかされなかっただけ、この国はまともな国だな、と気を取り直す。

 売店でペットボトルのヨーグルトドリンク(6元)を買って飲んだりしながら、待合室で待つ。フリーWi-Fiが飛んでいるが、現地の携帯電話で認証する必要があるみたい。──検票が始まったので検票口に行くと、反対側の検票口に行くように言われる。列車の号車で分けているのだが、厳密だなあ、と。




 北京南発、大連北行きの、G387列車。ぼくは2時間足らずで下りてしまうわけだが、大連北に着くのは13時27分だそうで、北京から大連まで5時間で行けるというのはすごい。一等座車は先頭車両である。商務座があるせいか、乗務員が勢ぞろいして乗客を迎えている。写真を撮ってもいい?と愛想よく英語で言いながら彼らの間をすり抜けて、ぱちり。シーメンスの車両ですね

 一等座もほぼ満席だった。定刻の8時25分に、気温3℃で快晴の北京南駅を出発。最新の高速列車の横を、緑色の客車列車が走り抜けて行く。新旧混在、いまの中国らしい光景だなあ、なんて思う。


 どうも商務座に要人が乗っているらしく、えんじ色の制服にブーツが凛々しい女性の車掌長が、なにくれと世話を焼いている。──この要人はそのあと、秦皇島で下りて行ったが、そのときも乗務員一同勢ぞろいで、出迎えの人も多かった。写真は秦皇島駅にて。

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 列車はまず河北省の沃野を南東に向かって爆走し、天津を経由する。

 廊坊あたりでは、高層アパート群のすぐ隣で巨大な煙突がさかんに白い煙を吐き出している、という信じられない光景を目にしたが、さすがに工場とは思えず、あれは地域暖房設備か何かなのだろうか? 今頃はまだしも、真冬は日本とは比較にならない寒さの土地なので、一口で大気汚染対策と言っても大変なことであろうと察する。

 白く霞んだ天津の街に入り、天津西に停車すると、早くも乗客が若干入れ替わり、乗って来る人の方が多い。それにしても北京南から天津西までわずか35分である。15年前に北京から天津までのディーゼル特急列車に乗ったときは70分かかったはずだが…。地下線を通り、地上に出ると、在来の天津駅の構内を通過した。

 唐山を過ぎると車窓がだんだん山がちになってくる。


遠くの峰には何かの楼閣が。

 車内の電光掲示に表示された、この列車の速度は、最高で295km/hであった。──あるとき、並行する在来線の線路を、貨物列車がゆっくりと動いているのが見えた。どこまでつながっているのか見えないほどで、編成の中間にも電気機関車が連結されているのには驚いた。一昨日の雪が残る華北の大地を、長大な貨物列車が悠然と走り、それを横目にこちらは最新の高速鉄道で時速295kmなのだから、この国の鉄道は面白い。



 乗務員が配ってくれた、お菓子セット。一等座のサーヴィスらしい。

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 我到河北省来!


 山海関駅に着いた。地下道を通って駅を出る。地方都市の駅にしてはやたらと巨大な駅だし、こういった駅でも乗客の入口と出口がちゃんと分けられていた。

 ここからはタクシーをチャーターして、見物して回ろうと思っていた。タクシーが並んでいて運転手のおっさんたちがだべっているあたりに近づくと、声をかけてくる。

 英語できるか? とまず英語で問うと、おお外国人か…という空気になったので、中国語に切り替えて、──九門口と、山海関第一関、そして老龍頭をまわって、ここに戻って来たい。だいたいいくらくらいか。と訊くと、「アルバイ(二百)。」という明快な答えが返ってきた。

 200元、正直、「やはりそんなものか」と思った金額だった。一瞬、値切ってみようかな、とも思ったが、この3か所を回るとおそらく4〜5時間はかかるし、最初から関係が悪くなるのも困る。やりとりは、周りにいる他の運転手も聞いているので、事実上、こちらに選択権はない。──そんなわけで、「好!」と言ってそのおっさんのタクシーの助手席に乗り込んだ。メータは倒さず出発。*1 …「九門口は遠いのか?」「そんなに遠くない。だいたい…、20kmくらいだな。」

 東西の幹線道路を渡って、山の方に車は走る。



 だんだん、行く手の茶色い峰々に、崩れかけた長城が見えてきた。おお…!!



 30分ほどで九門口長城の駐車場に着いた。運転手は顔見知りの運転手に挨拶しながら、ワイグオレン(外国人)を連れて来たんだ、などと言っている。運転手に待っていてもらい、入場券(60元)を買って入った。

 ここは川の上を長城が越えており、“水上長城”として景勝地になっているところだ。水上の城門に9つの出口が開いているところから“九門口”と呼ばれているらしい。日本のネット上で訪問記はあまり見ない場所だ。


 堅牢な城門が川をまたいでいる。そして、両側の山には長城が続く。




 人がほとんどいなくて、城壁にも、見張り台にも、登り放題だ。そして快晴! ここまで来た甲斐があった。



 整備されていない、崩れかけた長城が続く。転落したら、よくて大怪我、また、立入禁止区域であるので当局に絞られるのは避けられないだろう。──こういった、整備されていない長城のことを“野長城”と呼び、数年前の冬、北京の郊外の野長城を歩く日本人ツアーが遭難する事件があったのは記憶に新しい。万里の長城をマイナーなポイントで見たいという思いはぼくにもよくわかるだけに(だからこそぼくもこんなところまで来ているのだし)、あのニュースには胸が痛んだ。



 中国人の女の子2人連れが「登るな」の看板を尻目に乗り越えていたので、ぼくもちょっとだけ乗り越えてみた。落ちたら自己責任。。。


 九門口長城のふもとには小さな集落があり、おそらく練炭を燃やしている独特のにおいが漂っていた。

*1:こういう乗り方をするのが有利なのかどうか、メータで行った場合いくらだったのかは、正直わからない。