night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

2/21(火)雪塵の甍、紅牆の道 ─紫禁城(1)

 翌日も、朝から薄ら寒い日だった。まずは、故宮と呼ばれる、紫禁城に行くことにした。ぼくは1998年に一度、北京の故宮を観光しているが、この歳になって改めて行きたい、と思っていた場所だ。──ホテルで朝食を取り、地安門大街の東黄城根北口という停留所から、82路という路線バスに乗った。南下して行くバスが、右折して広大な長安街に躍り出たところで、下車。「天安門東」バス停である。

 北京の都心部を東西につらぬく長安街という大通り、その北側に天安門がある。ちょうどその近くに下りたわけで、歩いて行けばすぐに天安門、そして故宮に入れる…と思ったら、そういう状態ではなかった。群衆が歩道を埋め尽くしている。柵があって車道にも出られない。


 事情はすぐに了解できた。安検(セキュリティチェック)だ。天安門に入るすべての人間の身分証を確認し、荷物をX線検査機に通しているのだ。柵がはりめぐらされており、公安の目が光っている。*1

 以前はこんなことはなかった。天安門広場は、暇なオッサンたちが呑気に凧揚げをしている場所だった。数年前の爆破事件などを経てこうなったのだろうか。うーむ、と感心しながらも、中国公民の大群衆に混じって、安検を待つ。彼らは人混みでも平気で煙草を吸い始める。一応、すぐそこで公安が歩哨に立っているのだけどね…。

 天安門東でバスを下りたのが10時半頃で、そこから15分か20分くらい並んだ。中国公民の人々が身分証のカードを出すと、公安はハンディターミナルでそれを読み取っている。ぼくが日本国旅券を差し出すと、ちらっと見ただけで「行け」というそぶりだった。まあ、なるほどね。──そして、そこまでして通った天安門だが、故宮の入場券を買う際にも身分証チェックが行われていて、「护照(パスポート)!」と言われたのでちょっと驚いた。そこまでしないと守れないものがあるのか、また、中国公民のみなさんは国家に監視されないと観光旅行もできないのか、などとも思わなくもないが、外国人がとやかく言うことではない。


 天安門広場。人民英雄紀念碑と毛主席紀念堂が見える。太陽が白い。空気もたしかに悪いのだが、天気も悪い。


 天安門肖像画とスローガンについては、説明するまでもない。五星紅旗とフランス国旗が掲げられているのは、ちょうどフランスの首相が訪中していたそうだ。

 まあそんなわけで、故宮こと紫禁城に入場する。


 天安門をくぐると、その先にあるのは端門。


 そして、午門。ここの手前の左側で入場券(40元)を買う。「オープン・ザ・ドア!!」(^^;


 太和門。宮殿はまだ。カフカ的ですね。


 太和殿! 皇帝はここで文武百官の朝賀に臨んだのだ。


 これが、かの有名な、大清皇帝の玉座


 おしくらまんじゅう状態

 さすがにここは史跡・故宮の中でも最も核心的な場所であるため、観光客の大群が押し寄せ、玉座の前はものすごい混雑だった。四方八方から押されるので、カメラなどまともに構えられない。スリなどの危険もあるだろう。

*


 ぼくはここに来るまでよく知らなかったのだが、乾清門から奥が、いわゆる内廷、つまり皇帝の私的な住居であり、辛亥革命後の「清室優待条件」によって愛新覚羅家に与えられたのは、その区域なのだそうだ。そして、そこから外側は、袁世凱だか張勲だかが扁額から満州文字を取り去ってしまったのだそうだが、乾清門より奥には、すべての建物や門に満州文字が残っている。


 古びてはいるが、美しい装飾が残っている。“斎宮”と書かれると日本人だと何の建物だか意味が理解できるが、これは西洋人観光客にはない強みだよな(?)。内部は展示室になっている。


 自転車で駆け抜ける有名なシーンがあったなあ…。

*

 宝物が展示されている“珍宝館”という区域に入るためには、さらに10元を払って別の入場券を買う必要がある。


 九龍壁。ただの彫刻ではなく、瑠璃瓦でできているのだそうだ


 これも、ただの器じゃないからね…玉だからね、これ…。ものすごいものだ。


 ほほー…と、感心するしかない。


 黄金の扁壺。


 いかにも乾隆帝好みな感じ。ちょうどその頃、欧州ではルイ15世とか16世とかの時代だ。東と西の宮廷文化は、実は相通じるものがあったのではないだろうか。

*1:車道に出て群衆をスルーしていくことも、天安門広場から長安街を横切って直接天安門に入ることもできない。また、これは翌日知ったことだが、天安門広場も、地下鉄駅からでも、横断地下道経由でも、すべてのルートで歩行者は必ずセキュリティチェックを通ることになっている。自動車で車道を通過することは可能だし、路線バスも通っているわけだが、車で来て不用意に区域内で停車などしようものなら、どうなるかは推して知るべしであろう。また、史跡としての故宮紫禁城)は、南の午門から入って北の神武門に出る一方通行のルートでしか観光できない。このため、中国公民であろうが外国旅券所持者であろうが、安検に大行列せざるを得ないのであった。