night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

大いなる天朝の都で

 頤和園の湖はまるで北氷洋のように凍っていた。だが、空気は(この街にしては)よく、夕方にはわずかに空の青さえ見えた。この街で青空が見えるなんて。

 中国旅行3日目くらいになると、慣れてきて、道がどんなに汚くても驚かなくなるし、制服の官憲を目にしても何とも思わなくなるし、停留所にいましも着いたトロリーバスに駆け寄って乗ったり、中国公民のみなさんと一緒に信号のない片道3車線の道路をそろそろと渡ったり、道端のごみ箱で煙草を吸ったりするようになる。

 それにしても、ここは、日本とは違いすぎて、北京と東京という二つの都市が、いまこの瞬間、同時に存在しているということが、ほとんど信じられなくなってくる。ここの人たちは周りのことをまったく気にしない。ところかまわず大声で話しまくるし、子供が博物館でどんなに騒いでも誰も気にしない。混雑した地下鉄で、スピーカで歌謡曲を流しながら物乞いが車内を廻ってくると、無視する人が大半だが、財布を開く人もいる。席が空くとすかさずおしりを押し込むおばちゃんがいるが、そんなおばちゃんも、小さな子供を連れた人がいるとしつこく席を譲ろうとする。周りが急いでいるからと言って自分は急がなくていいし、また急がない人が存在することを許容しながら自分は自分で急ぐ。…下手をすると東京に匹敵する大都市圏であるはずなのだが、意外なほど、ギスギスした感じがない。

 まあ、もしかしたら、この国のギスギスは政府部門が引き受けていると言えるのかも知れない。地下鉄に乗るたびに荷物をX線検査機に通すとか、首都の中心にある広場に入るすべての経路で身分証明書と荷物の検査が行われているとか、他の国では考えられない。何かを守っているのだ。もしくは、何かを恐れているのだ。