night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

今月の読書メモ(2016年1月)

▼供述によるとペレイラは…/アントニオ・タブッキ、須賀敦子訳
供述によるとペレイラは…
 昨年末に「タブッキはいいぞ」と思い始めて読んだ2作目。ポルトガルの熱い空気と空、リスボンのカフェや路地の灯、そんなものが想像できる文章で、旅行したい欲が駆り立てられる。舞台は戦間期のポルトガル、サラザール独裁政権の不穏な社会。何の係累も無く独りで生きる、冴えない中年の主人公。しかしラストシーンで彼は、決断して歩き出す、鮮やかな幕切れ。読み終わってから知ったが、欧州では前世紀末に映画化されていて、マルチェロ・マストロヤンニが主演したそうだ。ちょっとイメージ違わない? と思ったが、検索してみたら、…晩年のマストロヤンニってこんな感じだったのか。必ずしも原作通りのイメージではないけど、なるほどね、なんて思った。

▼レクイエム(白水Uブックス)/アントニオ・タブッキ、鈴木昭裕訳
レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
 「タブッキはいいぞ」の、3作目。『イザベルに』もそうだったが、登場人物たちが(語り手も含めて)生者なのか死者なのかわからない。この本に至っては舞台すら現実の街とは思われない。生者の地獄めぐりなのか、死者の霊の彷徨なのか。ただ、光が眩しい世界。タブッキの小説は幻想文学の一種なのか、と、ここに至ってやっと気づいた。

▼起終点駅(ターミナル)/桜木紫乃
起終点駅(ターミナル)
 短編集。普通の生活をしていては想像もできないような種類の人生を、脇役なり背景として扱ってさらりと書いてしまう凄味が、この人にはある。天塩の話が強烈だった。

▼五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後/三浦英之
五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後
 朝日新聞の記者によるドキュメンタリー。どこまでノンフィクションなのかわかりにくいきらいはあるけれど(辻政信に関するエピソードはフィクションなのですって?)…。2010年に開かれたという“最後の同窓会”から始まり、当時のスーパーエリートであった満州国立建国大学の出身者たちの、青春と、その後の運命に取材した、まぎれもない力作。読み出したら止まらない本だった。登場した出身者の多くが、著者の取材後に亡くなったという。今は最後の時代なのだ。

▼美麗島紀行/乃南アサ
美麗島紀行
 “かつて日本であった島”、台湾に残る、植民地時代の遺物。“飛虎将軍”の廟、鹿港に残る北白川宮を祀る神社の跡、八田與一の作ったダム…。