night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

坂本真綾『LIVE TOUR 2015-2016“FOLLOW ME UP” *COUNTDOWN SPECIAL』@東京国際フォーラム ホールA 12/31:続き

 坂本真綾さんカウントダウンコンサートの話の続き。

 この日、ぼくの隣の座席にいたのは、大学生くらいの男子2人組でしたが、開演前から、彼らが中国人であることに気づいていました。中国語を話していたので、まあすぐにわかりましたが、もてあそんでいるAndroidスマートフォン簡体字を操っているので、おそらく大陸人だな、というところまでは見当がつきました。

 彼らは開演と同時にスマートフォンをバッグにしまい、まわりのぼくらと同じように立ち上がって手拍子していましたが、…どうも、坂本さんのMCに反応してない。あ、日本語があまり聞き取れないんだな…、と。部分的には聞き取れてるようでしたが、たぶん半分もわかってない。年越しカウントダウンのときの坂本さんの、「男子!」→「いえーい!」、「女子!」→「いえーい!」、「こっち半分!」→…、などにも、反応できていなくて、ぼくは、あーこれは翻訳してあげたほうがいいのかなあ、と思いながら、そこまで反射神経よく、見知らぬ隣人の世話を焼けませんし、そこまでしてあげる義理も、ないと言えばありません。

*

 しかし、だんだん彼らが、ライヴ中にスマートフォンを取り出してSMSでトークし始めてしまったので、…ああ、これは別の意味で軋轢を生みそうだな、と思って、ちょっとひやひやしていました。言うまでもなく、「演奏中の携帯電話の使用は禁止」です。ひどいようならやんわり注意しようかな、と思いつつ。。。

 ですが、外国でライヴに来てみたものの、坂本さんが何を話しているのか聞き取れず、周りがなんで盛り上がっているのかわからず…では、疎外感を感じてしまっても仕方がない場面だなあ、とも思いました。それに、そもそも「携帯電話の使用は禁止」というレギュレーションを知らない可能性が高い。携帯電話の禁止とか、撮影・録音禁止、とかいうのは、どちらかというと日本独特のレギュレーションだからなあ…。(YouTubeとか見てるとわかりますが外国はそのへんほとんどフリーダムみたいですよね。まあ全部が全部ではないでしょうけれど)──しかし、坂本さんのライヴに来る人たちって基本的に真面目な人が多いので(ぼくはそう感じています)、そういう、「禁止事項を破っている」ことに対して、反発して、ライヴ中に軋轢を生む可能性があるなあ、と思って、その意味でひやひやしていました。ライヴは基本的にハッピーな場であってほしい…。

 ここは、その中国人の彼らに、周囲に関心を向けさせることが必要だ、と思って、『シンガーソングライター』の前に「ほら、最後の一曲だよ」と言ってみたり、…ライヴ本編終了後のアンコール待ちの間、彼らに話しかけてみました。

「きみたちは中国人か?」
「そうだ。」
「中国のどこだ? 」
武漢。」
「そうか。新年快乐!」
「…お、おう。(^^;」
「彼女(坂本さん)が話しているのを、聞いて理解できるか? 」
「うん。。。」
(…あ、そうでもないんだな、やっぱり)

 いきなり中国語で話しかけられてびっくりしてたようだったけど。

*

 アンコールではちゃんと坂本さんの歌を聴いてくれていたので、ほっとしながら終演。。。──帰ろうとしたところ、後ろに座っていた男性が、おまえら何携帯使ってんだよ…! と彼らに対して怒鳴り込んできたのでした。

 ああ、やっぱりこうなったか、と思いながら、ライヴ会場で無用の衝突を見たくない、という思いから、「まあまあ、」と割り込みました。彼らは中国人だ、MCがあんまり聞き取れなくてつまらないんだ、しかたないよ。──「そんなの理由になるかよ!」と言われましたが(そのとおりで、たしかにそれは理由にはならない)、なんとかその場を納めて、中国人の彼らに説明を試みました。「きみたちは演唱中に携帯を使っていた。彼(怒った男性)はそれをとても嫌がった。それは日本ではとても嫌がられることなのだ。」…どうにかこうにか中国語で説明したところ、納得したような表情をしてくれたので、意味は伝わったと思います。

 「旅行で来てるのか?」と聞いたところ、留学だ、とのこと。なるほどね。

 「MCが聞き取れなくてつまらないんだよ」というぼくのとっさの擁護は、筋が通っていなかったし、また、「そんなの理由にならない」という、男性の言い分は、完全に正しいものです。なぜなら、「演奏中の携帯電話の使用は禁止」というのは、その場のルールであるからです。(「嫌がられることだ」というぼくの説明も、十分ではありませんでした。はっきりと「禁止事項なのだ」と言うべきでした。しかし、とっさにそういう中国語作文が頭の中でできませんでした。)──しかし、ルールはルールであることは前提としても、ぶっちゃけ、理解してない相手に感情的に怒っても、しょうがない。また、あそこでぼくが割り込まなかったら、おそらく彼らは、なぜ怒鳴られているのかわからないまま終わったでしょう…もしかしたら、「日本人に差別を受けた」と思ってしまったかもしれません。せっかく大晦日に東京で坂本さんのライヴに来たのに、そういう終わりかたをして、そういう気持ちを持ったまま、帰ってほしくありませんでした。

*

 そろそろ、日本のエンターテインメント業界は、コンサート会場でのレギュレーションについて、日本語で日本人相手にだけ告知するのではなく、多国語で、さまざまな手段で(そして、その禁止事項が“何故”禁止なのか、という理由まで含めて)、しっかりアナウンスするべき時代に来ている、と考えます。日本でコンサート慣れしているぼくらが、ほとんど当然に思っていることも、文化的背景が違う外国人には通じないのではないか。

 ぼく自身、隣でスマホを使われてまず抱いたのは「うーん、嫌だな」という感情でしたが、なぜ嫌に思うのか、場のルールとして禁止であるとしたらそれはなぜ禁止なのか、という理屈を、明快に説明できるか? と考えると、自信がありません。

 また、いまの日本社会の一部に中国人アレルギーみたいなものがあるのはたしかだと感じていますが、少なくともコンサートに来てみようなんて思う人たちは、話せばわかる可能性が高い層だとぼくは考えている(そして、ぼくらと同じように坂本さんのファンで、ぼくらと同じようにスマホ中毒なんですよね、きっと!)ので…、相手が理解してないことを前提に、とりあえず話して説明しないとダメでしょう。

 加えて、「場のルールを守ること」に固執するのって日本人の国民性なんじゃないかな…とか、この日、東京国際フォーラムから帰宅しながら、ぼくの思考が拡散していたのですが、そこまで広げないことにします。

 彼ら、『プラチナ』ではすごく喜んでいたなあ。