night and sundial

じゃわじゃわ日記 -the 5th defection-

9/23(火)高速鉄道で南京へ

 9月23日。長江デルタに台風が直撃しようとしているのが気になっていたが、この日は見事に朝から強い雨と風が吹き荒れていた。地元の衛視(衛星放送)にチャンネルを合わせると、画面の右上あたりに“黄色警報”が出ている。この国でも香港あたりと同じで、台風の強さを色であらわすようだ。実は、一昨日、上海に到着したとき、高速道路の案内表示に“藍色警報”という電光掲示が出ていたので、青なら大丈夫なのかな、と思っていたのだけど、あれは預報ではなくて現況の表示だったのか。意味ないじゃないか。──窓の外の雨空を見上げながらホテルの朝食を取っていたが、…あ、上海から離れちゃえばいいんだ(?)、と思いつき、南京に行くことにした。この旅行中、一日使って高速鉄道で南京に行こうと思っていたのだ。上海から南京までは約300km、東京と名古屋くらいの距離だ。

 朝8時頃、びちゃびちゃと歩道を歩いて(街路の築造にあたって排水というようなことは考慮されていないな、と思った)、陝西南路駅からラッシュの地下鉄で上海火車站駅へ向かった。

#このとき、ぼくが乗った地下鉄1号線の電車が、なぜか黄陂南路駅を通過した。急行なのかと思ったが、どこにもそんな表示はなかったし、そもそも急行なんかないはずだ。いまもって謎である。


上海駅、雨。まずどこから入っていいのかわからないくらいに巨大な駅舎

 中国の大都市の鉄道駅(火車站)は、長距離利用に特化したつくりになっていて、出発客の入場口と到着客の出場口が階で分けられていたりする(これ、日本の上野駅とかでも建設時には同じ発想があったらしいが)。感覚的には鉄道の駅というより空港だと思った方がよいと思う。そしてとにかく巨大である。──南側には有人窓口がないらしく、駅を突っ切って北側に回ったところ、地上に有人窓口が並んでいるのを見つけて、歩み入った。

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 中国の鉄道の乗車券と言えば、「とにかく買えない」という刷り込みのようなものがあった。窓口は人民で押し合いへし合いしている。並んで、割り込まれて、耐えて、やっと窓口にたどり着くと、喧嘩腰の服務員に「メイヨウ(没有)!」攻撃を食らう。本当に無いのかそうでもないのかは神のみぞ知る。押し問答してるとなぜか売ってくれたりする。でも切符を買えたことにただ感謝しましょう、「なぜ?」などと問うてはいけません。…というのが、中国の鉄道に持っていたイメージであった。しかし、時代は変わってきているようだ。──まず、今年に入ってからのことらしいが、鉄道乗車券を買うときに身分証の提示が義務付けられ、身分証1枚あたり1枚の乗車券しか買えなくなった、ということだ。乗車券には実名が登録され、乗車時にも再度、身分証を提示する必要があるという。

 この“実名登録制”は、絶大な効果があったようで、要するにダフ屋が一掃されたらしい。「12306.cn」という中国国鉄の乗車券予約ウェブサイト(今ではそんなものがあるのか、というのも驚きだが)を見ていて、これは幹線系統なら当日でも乗れるぞ、という予感を持っていた。在庫が可視化されることで、あるものは買える、という時代になってきたらしいのだ。──という情報を仕入れていたが、やはり最初は半信半疑であった。

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 乗車券売り場には、自動券売機もかなりの数が設置されている。だが、これを使えるのは中国政府の身分証を持っている中国公民だけで、ぼくのような外国人は有人窓口で旅券を出す必要があるため、結局は窓口の行列に並ぶことになる。見ると、開いている窓口の数もだいぶ絞られていて、ぼくが行ったときには3つしか開いていなかったが、行列のほうも、ごく短かった。1人分待ち、1人分割り込まれただけで、自分の番になった。これだけでまず驚いてしまう(苦笑)。──「南京まで、一番早い列車を頼む。(One ticket for the today's earliest train to Nánjīng, please.)」という意味のことを言って(笑)旅券を出すと、約50分後の9時12分に発車する南京行きのG7044次の乗車券が出てきた。一等座(一等車)で219.50元であった。等級のことを言うのを忘れたが、外国人なので一等座を出してきたのかな。「G7044」と列車番号の頭にGがつくのは、いわゆる「高鉄」、高速鉄道である。

 駅の通路で、「高鉄給水処」という看板が出ていて、ペットボトルのミネラルウォーターが積み上げられているところがあった。当日の高速鉄道の乗車券を持っていると水が一本もらえる、というサーヴィスらしい。とりあえずもらう。


 そもそも上海ー南京間には、東海道新幹線もかくやと言うばかりの、かなりの本数の高速列車が走っていて、侯車室(待合室)で待っていると、ぼくが乗る9時12分の列車の一本前の、9時00分発の南京行きの乗車改札を待つ人々が群れを成していた。──成都、無錫、合肥、などといった行先が並ぶ発車案内標を見ていると、テンションが上がってしまう(^^

 改札が始まり、いよいよ乗車。乗客の群れが改札口に殺到する。旅券と乗車券のチェックを受けて、乗車券を改札機に通して、ホームへの通路に進む。ホームに下りると、そこに停まっていたのは、見事、日本のE2系がベースの、あの車両だった。


 8両編成で、先頭車両が一等座になっている。定刻に発車した。

 車内のモニタには、“今起全国鉄路実行新列車運行図”…、『7.1大調図(7月1日大規模ダイヤ改正)』の宣伝映像が流れる。太西高鉄(太原ー西安高速鉄道)の開業が、このダイヤ改正の目玉らしい。石家荘ー太原の高速鉄道も近く開通する。いずれウルムチまで開通するだろう。我々の建設は止まらない…、とのこと。中国はいま、高速鉄道大建設時代なのだ。──窓の外には、並行在来線の線路が近づいては離れ、緑色や白地にオレンジ色の帯の客車を連ねワインレッドの電気機関車が牽引する列車などが見えた。発車後10分程度で、早くも「278km/h」という表示(車内の通路扉の上の、日本の新幹線だとニュースなどが流れるところの電光掲示)が出ている。すでに日本の新幹線よりも速い。揺れは驚くほど少なく、乗り心地は非常に良かった。ぼくが表示を見た中で最高速度は、296km/hというものだった。


 今回の乗車券。旅券番号が印字されているのでマスキングしています。このときはされなかったが、本来は旅券番号だけでなく、氏名も登録・印字するらしく、駅窓口によっては名前がローマ字で印字されることもあった。(このときの駅員は、よく見ると、氏名の入力項目に「.」を入れてごまかしたらしい。)




 車窓風景はこんな感じ。天気が悪いのが残念…


 ときどきこういうのが現れる。アメリカの原発のイメージに似ているのでギョッとするが、まさか原発ではなかろう。これは常州の近くだったかな

 9時43分の蘇州で隣の席のおっさんが下車。10時21分の常州では一等座から西洋人が幾人も下りた。ずっと平野を走ってきたが、左手の車窓にずんぐりとした山塊が見えてくると、上海を発車してから初めてのトンネルを抜けて、ほどなく南京の市街地に入った。


 11時14分、定刻に南京駅に到着した。大陸全体から見たら、上海から南京までの300kmなんて、わずかな移動距離だけれど、それでも、中国で長距離列車にするすると乗れてしまったことに、ちょっと感動。時代は変わっているぜ(^^